頼清徳新総統の就任に、中国が即座に反応…台湾周辺で大規模軍事演習 現状維持路線の行方は

治安 太郎 治安 太郎

5月20日、今年1月の台湾総統選挙で勝利した頼清徳新総統の就任式が行われた。就任式には50以上の国と地域の代表団500人が参加し、日本からも30人あまりの国会議員が参加した。対中関係について、頼氏は蔡英文政権が掲げた現状維持路線を継承し、中華民国と中華人民共和国は互いに隷属しないと述べ、台湾は中国の一部だとする中国側の主張を改めて否定した。一方、台湾政策を担当する国務院台湾事務弁公室は21日、頼氏の主張は挑発と敵意に満ち溢れており、必ず反撃して懲罰を与えると強くけん制した。

そして、中国は早速それを行動に移した。中国人民解放軍で台湾海峡を管轄する東部戦区は23日、午前7時45分から台湾周辺で2日間にわたる軍事演習を開始したと発表した。軍事演習には海軍、陸軍、空軍、ロケット軍などが参加し、打撃訓練や戦闘準備のパトロール、実戦訓練などが行われ、軍事訓練は台湾の北部や東部、南部の海域、中国大陸が目の前にある金門島や馬祖島など広範囲に及んだ。

今回の軍事演習が頼政権を強くけん制するものであることは言うまでもないが、軍事演習の規模やその範囲からは、中国側には台湾統一の選択肢は譲れない、中国は米国の圧力には屈しないという強い姿勢が感じられる。

似たような軍事演習は過去にもあった。一昨年8月初め、中国が台湾を訪問しないよう再三警告する中、当時のペロシ米下院議長が訪問して蔡英文氏と会談した際、中国は今回のように台湾を包囲するかのような大規模な軍事演習を行い、複数の弾道ミサイルを発射した。そのうちの5発は日本の排他的経済水域にも落下した。

頼氏は蔡氏のように、統一もしない独立もしないという現状維持路線を中国に示しているが、台湾が現状維持路線を続けられることは時間の経過ともに難しくなっている。

これまでも1950年代の第1次、第2次台湾海峡危機、1990年代の第3次台湾海峡危機など中台間の軍事的緊張が高まる事態はあったが、いずれも米国の軍事力が中国のそれを圧倒していた時代だ。しかし、台湾や米国が対峙してきた相手の軍事力は巨大化し、今やこの地域で米国が中国を軍事的に抑止できない状況になりつつある。要は、現状維持路線は中国がそれほど強くなかったから維持できたのであり、中国が大国化するに連れ、現状維持路線の効力は低下しつつある。軍事リスクを回避するため、頼氏は中国に現状維持路線を示しているが、習氏は現状維持路線は「我慢」できないと台湾に変化を要求している。両者の間には、大きなミスマッチングが生じている。

また、米国の中国への警戒心は日が増すごとに強くなり、バイデン政権はウクライナと同様に台湾を民主主義と権威主義の戦いと位置づけている。仮に、中国が台湾を支配下に置けば、そこを西太平洋進出に向けての軍事的最前線にすることは間違いなく、これまで西太平洋で軍事的覇権を握ってきた米国はそれを強く警戒している。要は、台湾は米中双方にとって譲れないレッドラインとなっており、中国の軍事的圧力が増すにつれ、米国の台湾への軍事的接近が必然的に進むことになるのだ。

このような軍事的背景の変化に着目すれば、台湾が現状維持路線を取ることは難しくなってきている。中国の現状維持路線への不満は高まる一方で、台湾には米中どちらに付くのかという圧力が今後さらに強くなるだろう。頼政権下の4年間はもっと厳しいものになろう。

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