【各選挙区の結果の分析】
各選挙区の「有権者の支持政党別の投票先データ」は、末尾にお載せしています。
東京15区
勝った酒井氏は、助産師を経て区議を務め、前回の区長選にも出馬し、地元で名が知られていました。江東区は、都議(定数4)は共産1名、区議(定数44)は立憲1名・共産5名で、決して政治勢力として大きいとはいえませんが、労組票等のまとまり、闘病経験への共感、好印象の女性であること等で無党派層にも浸透したと思われます。
須藤氏は、当初は野党統一候補として擁立の動きもあったようで、全候補者の中で、唯一地元で生まれ育っていること、格闘界関係者のバックアップ、また、電飾自転車で地元を回るといった独自のパフォーマンスが“刺さった”面もあり、自民や無党派の票を取りました。
金澤氏は、普段から地道に駅立ちや地回りを続けている、との評価が定着しているとのことで、華奢な印象を覆す芯の強さを感じさせ、前回の衆院選も4.5万票を取っていました。自民や無党派の票も取りましたが、維新の東京進出への壁も示しました。
飯山氏は、一部ネット上での熱烈な支持、新たな日本保守党への期待といったこともあり、当初の予想より大きく票を伸ばし、存在感を示しました。参院比例など含め、今後の“岩盤保守”票の動向が注目されます。
乙武氏は、思ったような票が出ませんでしたが、これは、いろいろなファクターが絡み、今後の政局にも影響するところですので、ちょっと深掘りしてみたいと思います。
小池都知事の戦略ミスというか、狙い通りに行かなかった面があると思います。自民に逆風の中、「自民に厳しいことも言って反自民の支持も得つつ、自民の応援を得る」との戦略を描かれたのだと思いますが、前々回の江東区長選のしこりもあり、自民党の強い怒りを買いました。候補乱立の中で、自民、都民ファ、無党派層のどの票も十分集まりませんでした。
小池知事は熱心に応援演説に入っただけではなく、有力者と言われる人のところに乙武氏を連れて熱心にお願いに回ったようですし、最終盤では公明が動いたという話もありますが、それでも、自公が全力で応援した場合に取れたであろう得票には、遠く及びませんでした。
前述のとおり、八王子市長選も、江東区長選も、自公と小池氏の両方が強力に応援することで勝っているわけで、やはり「自公+小池氏」のきちんとした連携がないと厳しいということだと思います。
また、これは“国政選挙あるある”ですが、自民党の党本部、都道府県連、地元支部というのは、実は思惑がバラバラで、それぞれの溝が非常に深いです。「党本部から言われたから、都道府県連や地元支部が一丸となって動く」なんてことは、基本ありません。
特に、どの選挙区でも、地元には「ひとたび選挙となれば、汗を流して必死で働かなければならないのは自分たちなのに、『党本部や都道府県連が勝手に決めて、自分たちが選んでいない候補者』を応援しろ、と言われることへの抵抗感」が非常に強くあります。
市区長選や地方議員選挙に、党本部は実質的影響力がほとんど無いため、忠誠の必要性が乏しいこと、また、長年に渡り地元に君臨する方々がたくさんいる、という自民党に顕著な事情かと思います。
いずれにしても、どんな選挙においても、今どきは昔と違って、「有権者の心を動かす」大きな力は、「偉い人(有力者や自分の会社の社長や職域団体の長等々)から頼まれた」といったことではなく、「その候補者のことを、その有権者自身がいいと思って、応援したいと心から思ったこと」が大切になっている、と思います。
島根1区
勝利した立憲の亀井氏は、“保守票も取れる野党候補”であり、「9:6:3の法則(野党支持層の9割、無党派層の6割、保守層の3割を獲得すれば、野党の候補が勝てる)」を満たす候補者でした。実際に、無党派層の7割、自民支持層の3割、公明支持層の4割を取っています。
亀井氏は、岩倉具視氏を祖先に持つピカピカの家柄で、自身も参院・衆院議員を務めましたが、父親の久興氏は自民党で国土庁長官まで務め、父子ともに、地元では高い知名度がありました。
自民党への世襲批判がよくなされますが、所詮、野党も同じ(世襲議員の占める割合は違いますが)というところは、「お金持ちが圧倒的に有利(深刻な政治内経済格差)」という、日本政治の根本的な問題のひとつだと思います。
自民の錦織氏は、元財務官僚としての政策能力やがむしゃらに働くポテンシャルは十分あったと思いますが、いかんせん、逆風が強かったと思います。
島根は「自民党王国」とされ、自民が議席を独占しているという意味では確かにそうなのですが、前回衆院選は「細田前衆院議長6割、亀井氏4割」という得票で、亀井氏にすでに一定のポテンシャルもある中、今回派閥裏金問題の渦中で、自公の動きもフル稼働とは全く言えず(公明の推薦が出たのは告示日の前日)、岸田首相はじめ幹部が応援に入りましたが、聴衆の数や盛り上がりにも欠けていたようです。また、“弔い合戦”とはいっても、親族ではないので、その意味合いも薄くなります。
これまで国政選挙の補選では、自民党は、派閥の勢力拡大につながるため、候補者が所属する予定の派閥の議員や秘書が総出で応援に入る、というのが通例でしたが、派閥解散により、そういったことは行われなくなり、代わりに今回は、中国ブロック選出議員の事務所を中心に行われたものの、やはり派閥の持つ絆やポテンシャルには遠く及ばなかったと思います。
島根県では、国会議員は、衆が自民1名、立憲1名、参が自民2名。県議(定数36)は、自民26、公明2、立憲4、国民1、共産2という勢力図です。
長崎3区
勝利した立憲の山田氏は、現職の衆院議員(1期)で、父親の正彦氏は、民主党政権下で農林水産大臣を務めました。所属政党をたくさん変わられましたが、政治の世界には、「どこの政党に移ろうとも、『その人』を応援し続ける」という強固な支持者が存在し、「〇〇(候補者の姓)党」と呼ばれたりします。“お父さんに世話になった”は、地元でも永田町でも、大きな強みで、“地盤看板カバン”といった言葉では片付けられない、応援のエネルギーがあったと思います。
維新の井上氏は、長崎県には維新の国会議員も地方議員もひとりもいないという状況下で、奮闘されたと思います。やはり、国政を空中戦だけで戦うのは容易なことではなく、維新が全国政党化を目指す中で、地方議員や首長を増やし、地力を強くしていくことが不可欠であることを改めて示しました。
自民党は、今回候補者を擁立しませんでしたが、衆院の新1区から3区の支部長はすでに決定している中(1区は元県議、2区・3区は現職衆院議員)、今回の補選に候補者を立てても、次の選挙で行き場が無いという事情がありました。ただ通常は、勝つ見込みがあって、候補者を立てて勝った場合には、次の衆院選で比例に回す、といったことが行われますので、やはり、今回は不戦敗にせざるを得ない、という苦境を象徴していたと思います。
長崎は前回知事選が保守分裂でした。どこの地域でもそうですが、国政での勢力図の変遷は、地方選挙にも影響することになります。
長崎県では、国会議員は、衆が自民2名、立憲2名、国民1名、参が自民2名。県議(定数46)は、自民30、公明3、立憲3、国民3、共産1となっています。
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今回の補選結果を受けて、解散・総選挙がいつになるか、自民総裁選がどうなるか、といった政局の論議がさかんに行われています。いつも思うのですが、議員自身が次の選挙で当選するかどうか、党内力学がどうなるかといったことは、もちろん、当事者にとっては、極めて重大な関心事なわけですが、国民が望むのは、あくまでも、国民のことを真摯に考え、その不安に応え、国民と日本国の将来にとって、より良い政策を実現してもらうことであり、政局に明け暮れる永田町の人々の姿は、国民に一層の政治不信を湧き起こすだけではないだろうかと思います。
そして本来は、政権を担う実務能力を有する政党が複数存在し、政権交代が適時行われることが、政権運営に緊張感を生んでいくはずなので、逆に言えば、「政権交代が起こらない」ことが、現下の日本政治の大いなる停滞の要因のひとつといえるとも思います。
与党も野党も、自身や自党の勢力拡大ばかり考えるのではなく、そうしたことはあくまでも、政治においてより良い政策を実現するための「手段」であるという認識の下、国民に寄り添い、山積する課題に対処し、日本国の強く明るい未来を着実に作っていく、という「目的」の実現のために、ちゃんと働いてもらいたいと、国民の皆様は思っていると思います。