衆院補選で示された「政治への怒りと諦め」…与野党ともに求められる変革 豊田真由子が読み解く衆院補選結果

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

4月28日に行われた衆院3補選では、自民党が全敗しました。結果自体は大方の予想通りであったと思いますが、有権者の投票行動から読み取れることや関係者からの話なども踏まえ、結果の分析や日本政治の問題点、今後への影響等について、考えてみたいと思います。

【ポイント】

・自民への不信は相当深刻だが、立憲への全面的支持でもない
・政治全体への諦め
・衆院小選挙区では、「地元に根付いている候補」が強い
・“野党だけど保守系”は強い
・無党派層の動向がカギ
・投票してもらうには、「押し付け」ではなく、有権者自身が「その候補者をよいと思い、心を動かされること」が必要
・結局、野党も世襲頼み
・総選挙での野党共闘は容易ではない
・小池都知事も単独支援では勝てない
・“ポスト岸田”の動きが始動
・政局が一大事なのは政治家だけ

【考察】

▽“政治とカネ”の問題をはじめとする自民党への逆風は大きく、それも、「お灸を据えたい」といったレベルの話ではなく、「もういい、期待しない」という諦観や呆れに近い思いを持つ有権者も多い印象を受けました。そういったことを、自民党がどれくらい危機感を持って深刻に受けとめているか、が肝心で、今までのように「ここをじっとやり過ごせば、有権者はそのうち忘れる」と思っていたら、大変なことになると思います。

▽立憲民主党の公認候補が全勝し、それ自体は大いに評価すべきことだと思いますが、一方で、自民党への逆風という敵失の面も強く、立憲に政権を担ってほしい、といった強い全面的支持の表れということでもないように思われます。「政治改革」を求める声は大きいと思いますが、「政権交代」へのハードルはまた別にあり、国の舵取りをできると信頼されるに足る実力を付けることが求められます。

▽低い投票率(東京40.70%、島根54.62%、長崎35.45%)の理由は、補選であること、連休の中日であること、自公の候補者がいないところは、投票に行かない有権者も多かったと推察されること、長崎はなくなる選挙区であること、等が考えられますが、そもそも、「与党も野党も含め、政治全体への諦観・嫌悪」といったものも、感じます。

▽有権者の支持政党別の投票先データ(末尾に掲載)が興味深いです。野党候補の勝利に必要とされる「9:6:3の法則(野党支持層の9割、無党派層の6割、保守層の3割を獲得すれば、野党候補が勝てる)」というものがあります。現下の政党支持率から考えれば、野党候補は「自分の属する政党の支持層の票」だけでは勝てないわけで、「あまり過激でなく、保守層や無党派からも票を得られる候補」が重宝されます。3選挙区とも、勝った候補者は、与党票の一部と、そして無党派の票を相当数取っており、絶対数が多い無党派層の動向が勝敗を左右するともいえます。

▽一方で、「与党だけではなく、結局のところ、野党も世襲候補が強い」という、日本政治の根深い問題が露呈したともいえます。島根、長崎とも、立憲の候補は、由緒正しき世襲で、知名度があり、父親は自民党所属だった時期もあり、その子どもは「野党票」と「保守系」の両方の票が取れるという強みがありました。

▽「野党が選挙協力して、一騎打ちなら勝てる」との認識が高まっているかと思いますが、本選である総選挙では、そう簡単にはいかないと思います。今回の島根は、「与党新人vs地元で実績のある世襲野党候補」であり、他地域では実績のある与党議員も多いこと、維新等の独自性もあり「完全な野党共闘」は難しいこと、比例投票がある総選挙では存在感を示すために共産党も独自候補を立てる必要があること、等々から、全国で直ちに同じことが起こるとはいえないと思います。

▽東京15区の得票順位を見ても、やはり、衆院小選挙区は、参院全国比例や参院複数区のように、「地元に関係の無い有名人が、突然来て勝てる」わけではなく、やはり「地元で活動を続け根付いている/地元出身等で熱心な人脈がある」といった候補が強いといえると思います。

▽小池都知事の求心力に疑問符がついたと言われますが、そもそも、勝利した八王子市長選や江東区長選は、「自公」+「小池都知事」が結束することで勝利しており、別々に候補を立てた目黒区長選では敗北したことも踏まえれば、やはり両者の連携が無いと厳しい、ということだと思います。

ただ、(いろいろと批判はあるものの)知事自身への人気は根強くあると思いますので、7月の都知事選は乗り切れるように思いますが、「自身がイニシアティブを取って、国政を動かす」という目論見については、大きく見直しを迫られると思います。

▽今後の政局については、現時点ですぐさま「岸田降ろし」にはならないと思いますが、「岸田首相では次の選挙は戦えない」との不安が広がったことや、派閥問題での対応等で、党内に次期総裁として岸田氏を推す思いとインセンティブは少なくなっていると思います。

▽自公内では、解散・総選挙は秋以降を求める声が多いと言われますが、総裁選を巡っても、様々な思惑がうごめいています。ただ、政局が一大事なのは政治家にとってだけであり、国民が望んでいることは、あくまでも、山積する課題にきちんと取り組み、国民生活の不安に応え、より良い政策を実現してくれることだ、ということを認識する必要があると思います。

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