まずはトライすることで切り開いたキャリア 株式会社HioLIの代表者が語る「社会問題を解決するスイーツ」とは

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生産者を悩ませる「脱脂粉乳」をアップサイクリング。おいしさと社会貢献を両立するクラフトスイーツメーカーとは?

クラフトアイスクリームブランド「HiO ICE CREAM(ヒオアイスクリーム)」、クラフトバタースイーツブランド「Butters(バターズ)」、チーズスイーツ「山ノチーズ」を手掛ける株式会社HiOLI。

お菓子に欠かせないバターは1kgを製造するのに20kg以上の生乳が必要と言われていますが、その過程で大量の脱脂粉乳も副産物として生まれてしまいます。

そして、それには使用用途が見つからないという課題がありましたが、HiOLIではその脱脂粉乳も活用したスイーツを製造。おいしさを追求しつつ、素材を余すことなく使うことを両立させています。

西尾修平さんは、リクルートやMIXIなどでキャリアを積み、同社を2018年に立ち上げました。

まったく異なる業界からクラフトスイーツブランドを立ち上げるまでにどんなキャリアをたどっていったのか、また、HiOLIを通じて実現したいことは何か、お話を伺いました。

PDCAではなくDCPA。まずはトライすることで切り開いたキャリア

―リクルートやMIXIで勤務されるなど、様々なご経歴を経て会社を設立されたのですね

(西尾)現在43歳で、社会人になってちょうど20年を迎えました。この20年を大きく大別すると、まず新卒でリクルートに入社し、その後、投資ファンドで企業再生に関する仕事やMIXIでの勤務を経験し、そして現在に至ります。

新卒での就職活動では漠然と「社会の役に立つ仕事がしたい」と思っていました。人々を安全に目的地まで届けるパイロットという仕事にも憧れていた時期もあれば、より多くの人々の生活が充実するような仕事もしてみたいと思ったこともありました。それも、政治や行政の立場ではなく、ビジネスを通じて生活者と近いところで活躍したいというものでした。

そこで、「何をするのか」ということも大切ですが、「誰とやるのか」ということも大事だと気づき、当時、採用力があると言われていた企業の選考を受け、仲間を集めるとはどういうことなのかを学ぼうと思ったのです。

リクルート以外にも様々な業界の企業の選考を受け、証券会社や広告代理店、航空会社などからも内定をいただくことができましたが、リクルートの選考で強く感じたことは多様な人材が在籍していて、活躍の型が一つではないということでした。また、事業領域が広く、当時も多くの社員が新しい事業創出に挑戦しており、自分もそこに加わってみたいという思いもありました。

さらに、人事担当の方は「あなたはリクルートで何を成し遂げたいのか」ということを深く聞く方で、自身を深く見つめなおすことができたように思います。就職活動はもちろん、リクルートに在籍している間も、常に何かを成し遂げようという意識を持つことができましたので、自分のキャリアの中でも貴重な経験であったと思います。

その後の投資ファンドでは、レジャー施設や食品会社などの企業再生を担当しました。いわゆるハンズオン投資でしたので、経営コンサルティングなども行い、20代後半から30代というタイミングで企業経営の在り方についても学ぶことができたのです。

また、担当した企業に入り込んで経営の舵取りをする中で、自分の父親と同じくらいの年代の方とお仕事をさせていただく経験も積むことができました。

その後、MIXIへと転職しました。ソーシャル・ネットワーキングサービス「mixi」が一世を風靡していましたが、LINEなどの競合サービスが次々生まれ、デバイスもガラケーからスマートフォンへと移り変わるという激しく状況が変わるタイミングでした。

そこに縁あって転職の機会をいただき、経営メンバーのひとりとして経営企画やファイナンスの領域をサポートしていました。新規事業を立ち上げること、そしてコミュニケーションや繋がりを重んじる会社であることから、お客様と深くコミュニケーションをとることの大切さを学ぶことができましたね。また、自分でリスクテイクする事業側の役割にも挑戦したいと考えるようになりました。

―様々なキャリアを選択されてきましたが、常にどんなことを意識されてきたのでしょうか

(西尾)新卒で入社したリクルートの上司に指導されたことが大きく影響しているように思います。営業職として入社し、当初はなかなか成果を上げることができませんでした。

その時に、いろいろとアイディアを考えることも悪くはないが、まずは小さくても良いから何かを成し遂げるために実行していこうということでした。

PDCAサイクルとよく言いますが、Pにばかり時間を割き頭でっかちになって動けないくらいなら、DCAPの順序でまずはトライしてみようということです。このことは私の中にずっと残り続けています。

―そして前職のスイーツメーカーを経て、HiOLIの立ち上げに至るのですね

(西尾)そもそも昔からスイーツが好きで、当初は定年まで勤め上げ、65歳になって引退をしたらスイーツにまつわる仕事をしようと考えていました。

ただ、父親が62歳のときに癌で他界し、「65歳まで待っていてはやりたいことが実現できないかもしれない」と思ったのです。やりたいことは体が動くうちに挑戦しないと、不完全燃焼になってしまうかもしれない、そう考えてのことでした。

そうしたときに、縁あって前職のスイーツメーカーの経営にかかわる機会をいただけたのです。スイーツは製造過程で大量にバターを使うので、乳業メーカーにもっと多くの生産を依頼したのですが、それはできないと断られました。理由を聞いてみると、製造過程でバターの倍以上の脱脂粉乳が生まれ、それを解決しないことには増産ができないと言うのです。恥ずかしながら、そんな課題があったことをこの時に初めて知りました。

これをそのままにしては増産できないことはもちろん、フードロスにも繋がってしまいます。それであれば、脱脂粉乳を活用したスイーツを生み出せないかと考え、アイスクリームや焼き菓子といったメニュー開発に専念できるようにHiOLIを立ち上げたのです。

―スイーツが昔から好きだったのですか

(西尾)常にいろいろなスイーツのある家でした。毎週末、父親と近くのお菓子屋さんに行って、家族の分のアイスクリームを買うことが習慣で、それをすごく楽しみにしていました。

いつか自分も親になったら同じように子どもと買いに行きたいと思っていましたし、子どもに買い与える以上、安心して食べられるようなスイーツが増えていけば良いなと思っていました。

BLUE BOTTLE COFFEEの精神を汲んだ企業経営

―社名にはどんな意味が込められているのでしょう

(西尾)Hi(ヒ)にはお日様や太陽の恵み、O(オ)は輪っか、LI(リ)はリンク(繋がり)の意味があります。太陽の恵みを受けた良い素材を活かし、みんなでおいしいお菓子を輪になって食べ、生産者や社会とのつながりも実現していく、そんな想いを込めています。

―自由が丘に特徴的な外観の店舗を構えられているのにも理由があるのでしょうか

(西尾)起業するにあたり、どのようなブランドを築いていきたいかを考えました。

もともと、同業との違いを意識していたこともありましたので、同業他社の戦略や方針を分析するのではなく、他業種の取り組みを参考にしていたのです。その際に参考にしたのが「BLUE BOTTLE COFFEE」でした。

日本進出の前にサンフランシスコの店舗を訪れる機会があり、「こんなにおいしいコーヒーがあるのか」と衝撃を受けたのです。

BLUE BOTTLE COFFEEはシングルオリジンコーヒーの先端を行っており、原産地や生産者の顔が見えることや、生産プロセスをオープンにしていることが特徴です。そのうえで、豆ごとに最もおいしくなる温度や抽出方法を見出し、それを定量化して多店舗展開しているため、コーヒーのおいしさはもちろん、口にするまでにどれだけの人がかかわっているのかを多くの方に意識させることに成功しています。

創業者であるジェームス・フリーマン氏は、拡大生産していく中でサービス提供の定量化と高い品質を維持することを意識しています。

そのため、ドリップマシンを使うのではなくハンドドリップにこだわっています。お客様をお待たせするぶん、生産性や価格競争の観点では劣るかもしれません。しかし、お客様もそれを理解して購入しているのです。

スターバックスコーヒーなどの大手チェーンと大きく一線を画す経営手法です。

こうした会社の生き方があることに感銘を受けました。そこで、私の会社はお菓子業界のBLUE BOTTLE COFFEEの様になろうと決意したのです。

実際に起業にあたってはジェームス氏にもアドバイスを受けました。「生産の手間を惜しまないこと」「産地には自身の足を運ぶこと」「メーカーとして生産プロセスをオープンにすること」この3つを学ぶことができました。

―それが起業の理念にもなり、事業運営における大事な考え方となっているのですね

(西尾)店舗の外観をガラス張りにしてオープンにしているのも、道行く人から製造の様子を見えるようにしたいという考えからです。

またこの工房には2つの価値があります。1つはおいしいアイスクリームやお菓子をつくるということですが、もう1つはラボとしての機能があるということです。

いまではナチュラルローソン様や成城石井様などのパートナー企業の皆様にも私たちの商品を扱っていただいておりますが、その原型はここから生まれています。品質にブレがでないよう、ここで定量的な生産方法を生み出しているのです。

また、自由が丘は都心からのアクセスも良く、クラフト文化が根付いているサンフランシスコのミッション地区のような落ち着いた雰囲気があることから選びました。

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