不動産の売買は法律で守られてきちんと正確に取引が進むもの…そんなイメージはありませんか? しかし、意外と「まさかそんなことが起こるなんて」というトラブルが起こりがちです。たとえば「登記簿で事前に把握していた土地の広さと、実際の土地の広さが違っている」なんてトラブルに巻き込まれることもあります。
親戚から安く土地が買えて
長く賃貸マンションに暮らしてきたAさん(関西在住、40代、主婦)一家が、家を建てることに踏み切ったのは、Aさんの夫が、親戚から土地を購入しないかと声をかけられたのがきっかけです。高齢者施設に入居するため、家を手放すことになったのですが、「どうせなら親族に引き継ぎたい。相場よりも少し安くするので、買ってもらえないか」と言われたのでした。
郊外で駅からは少し歩きますが、ロードサイド型店舗が多数ある幹線道路へのアクセスもよく、土地の広さは約50坪。場所も広さも理想的な土地でした。親戚同士ということもあり、不動産会社を通さず、直接購入することに。「古家の処分も引き受けてくれるなら、土地価格は公示地価でいいよ」。仲介手数料もかからない分、費用も一層安く抑えることができました。不動産会社に勤めている友人に聞いたところ「あのあたりでその広さなら坪50万円でも売れる。坪40万円なんて、いい買い物したね!」と言われ、大満足だったAさん一家。
しかし、司法書士に依頼した登記の変更手続きも無事終わり、建て替えを発注した設計事務所の設計士さんと打ち合わせをしていると、驚きの事実を告げられました。
「お預かりしている測量図と、現況が少し異なりますね。お隣が広く使用していて、ブロック塀が30センチほどこちらの内側に寄っている状態です。広さでいうと、だいたい1坪ぶんくらいですね」
前の持ち主に聞いたら「そういえば…」
突然のことにびっくりしたAさんは、慌てて前の持ち主である親戚に連絡を取りました。
「測量図と違う?そもそもその測量図自体、いつ登録したものか覚えていないけれど…」
お年寄りに遠い昔のことを思い出してもらいながら、ようやく聞き出した顛末はこうでした。
「もともとお隣も別の親戚が住んでいたのだけど、お隣さんとの間には枯れてしまった生垣があってね。手入れをするのも大変だということで、ブロック塀に替えたの。工事は向こうが全部やってくれるっていうからって任せちゃったけど、計測しないで適当にされたのかもしれない。そのころは土地の境界なんて、何も気にしていなかったから…」
しかも、お隣はすでに親戚つながりもない第三者に売却されて数年が経過していました。とても過去の経緯をもとに話し合いをお願いできそうな状況ではありません。
「測量図が実際と違うことがある」なんて想像もしていなかったAさんですが、実は測量図は必ずしも実状と一致しているとは限らないそうです。
例えば、登記申請に測量図が必要になったのは1960年からですが、2005年までは土地を分筆(分けて登記する)場合、片方の土地のみ測量して残りは従来の登記から引き算する「残地法」が認められていました。そのようなケースでは、残りの土地の測量図の信頼性は低いものが少なくありません。
今回親戚から土地を購入するにあたり、不動産会社を経由していなかったこともあり、契約の前に正確な測量などは実施していませんでした。
使えない土地の分、値引きしてほしいけど……
「正直、使えないと分かった面積分の土地代、今からでも値引きをしてほしいくらい…」と肩を落とすAさん。
ですが、仲介手数料や正確な登記・測量図の確認の手間をかけなかったから相場よりも安い価格で土地を手に入れられたのも事実。元の持ち主だった親戚に悪意があったわけでもありません。
一戸建てには広めの土地で、現況でも十分な間取りを確保できるため、そのまま建築計画を進めたそうですが、今でもお隣のブロック塀を見るたび「あそこの場所、ほんとはウチだったんだよね」と思ってしまうそうです。
実は今回の土地購入をめぐり、Aさんは自分の父母から「大きい買い物なんだから、手数料がかかっても、第三者を挟んでキッチリ売買を進めた方がいいのでは」と心配されていたといいます。今から思えばアドバイスは本当だったと感じてるそうです。