お金があれば、本当に幸せに? 年収800万円幸福ピーク説も 所得と幸福度の微妙な関係

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「お金があれば人は幸せなのか」

これは資本主義社会で生きる人間の永遠のテーマでしょう。年収の額は幸福度の指標と見られがちです。不景気が続いているとはいえ日本は経済大国で、世界の中でも経済的に恵まれていることは言うまでもありません。では、日本は他の国に比べて幸せなのでしょうか?

年収800万円が幸福度のピーク

プリンストン大学のアンガス・ディートン教授が発表した「年収800万円が幸福度のピーク」という面白い研究結果があります。年収の高さに伴って天井知らずに幸福度が上がるというわけではなく、年収800万円以上稼げていても幸福度は頭打ちで上昇しないというのです。

なぜ「お金=幸せ」ではない?

「お金では買えないものがある」

とは言いますが、お金があれば大抵のものは手に入ります。何より、お金が無いと生きていけません。しかし、十分なお金があっても、幸せを感じていない人がいるのも事実です。年収と幸福度の関係性について、興味深い調査結果があります。内閣府による2019年の調査報告「満足度・生活の質に関する調査に関する第1次報告書」によると、「現在の生活にどの程度満足しているか」について0点から10点の11段階で満足の度合を質問したところ、世帯年収が「2000万円~3000万円」までは年収の上昇に応じて満足度は高まりますが、ここで頭打ちとなりそれ以上年収が増えても満足度はゆるやかに減少する結果となりました。

では、なぜ「お金=幸せ」ではないのでしょうか。その秘密を探るには、アメリカの経済学者リチャード・イースタリンが1974年に提唱した「幸福のパラドックス」 について考えなければなりません。「幸福のパラドックス」または「イースタリン・パラドックス」とは、所得が増えてもある一定の水準を超えると人々の幸福度がそれ以上上昇しないという現象です。幸福のパラドックスを引き起こす原因は複数ありますが、代表的なものに以下のような原因が知られています。

▽原因1:感情と評価の区別

人が感じる幸福には「感情的な側面」と「評価的な側面」があり、所得の上昇は必ずしも感情的な幸福度を高めるとは限らないと言われています。なぜなら、感情的な幸福度は日々の体験の影響によって変動しやすく、所得の増加が直接的な影響を与えることは少ないからです。

▽原因2:相対所得の影響

人々は所得の多寡を他者と比較して評価するため、絶対所得が増えても相対的な位置付けが変わらなければ幸福度は向上しません。このような考え方を、リチャード・イースターリ ンによる「相対所得仮説」と言います。

▽原因3:満足レベルの引き上げ

人々は時間の経過とともに満足レベルを引き上げるため、所得が増加しても新たな欲求が生まれ、幸福度が頭打ちになることもあります。

▽原因4:社会階級との関連性

デンバー大学のアイリス・モース教授の研究によると、所得が増加しても社会階級が変わらないと幸福度は向上しないという研究結果があります。社会階級は幸福度に影響を与える要因の一つという考え方も一般的です。

これらの原因は、所得と幸福度の関係は複雑で、相互作用があることを示しています。経済的な豊かさだけでなく、社会的・心理的な要素も幸福度に大きく影響を及ぼしているのです。

物質的な豊かさではなく精神的な豊かさを

最後に興味深い話をご紹介しましょう。レスター大学の社会心理学者エイドリアン・ホワイト教授による2013年の世界幸福度指数ランキングによると、ブータン王国が北欧諸国に次いで8位、我が国日本は90位という結果がでています。ブータン王国の幸福度が高い理由は、GDP(国民総生産)ではなくGNH(国民総幸福量)を重視する国家方針にあるようです。GNHとは、経済的な豊かさではなく、精神的な豊かさを重んじる考え方を指します。

しかし、そんなブータン王国も近年は幸福度が低下しており、2019年に95位にランクインして以降、同ランキングには登場していません。かつては情報鎖国によって幸福度が高かったものの、情報社会となった近年ではさまざまな情報が流入し、他国と比較することで相対的な満足度が大きく低下してしまったようです。

大事なのは「お金=幸せ」という固定観念に捕らわれることなく、自分なりの幸せを見出すことなのかもしれません。

【監修】佐藤有希子(さとう・ゆきこ)愛知県在住。3級ファイナンシャル・プランニング技能士。2017年よりWebライターとして活動を始め、主に金融・お金に関する記事の執筆を行うこれまで携わった記事は800以上。

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