選抜高校野球大会決勝に出場した報徳学園の大角健二監督(43)には忘れられない敗戦がある。監督になって初めて迎えた2017年夏の兵庫大会準決勝で、繰り出したサインプレーがことごとく決まらず、1-2で敗れた。
試合後、大角監督は涙にくれる選手たちを集め、開口一番わびた。「本当に申し訳ない。全面的に俺の責任や」「監督の差で負けた。君たちは本当によくやった」。三回まで無安打に抑え込まれ、「このまま終盤までいったらしんどい」と初ヒットが出た四回から動いたが、小園海斗選手(現広島カープ)の二塁への盗塁失敗、バスターエンドラン失敗、三塁走者の飛び出しアウトなどでリズムをつかめなかった。
就任4カ月の新監督が選手のミスをすべて「自分の責任」と言い切る姿勢に、神戸新聞の記者として取材していた私は驚いた。「すべて監督のミスということもないのでは」と問いかけたが、「焦った采配で、彼らの足を引っ張ってしまった。別のやり方で(相手に)プレッシャーをかけられた」と大粒の汗をぬぐうことなく反省の言葉を並べ続けたのが印象的だった。主将は下級生に頭を下げた。「大角先生を早く甲子園に連れて行って、一人前の男にしたってください」
私は大角監督の「全面的に俺の責任」「監督の差で負けた」といったコメントを軸に記事を書いた。新聞には「報徳の機動力 空転 新監督『焦った采配』」という厳しい見出しが載った。
翌2018年夏、報徳学園は兵庫大会で頂点に立ち、甲子園出場を果たした。大角監督は自らの采配批判記事「新監督『焦った采配』」を財布にしのばせ、「あの試合を忘れたことはない」と自らを奮い立たせてきたと、先輩記者から聞いた。
あれから6年。2年連続で挑んだセンバツの頂点はわずかに届かなかった。1点を追う九回2アウトから二塁盗塁を成功させるなど攻めの采配でにじり寄ったが、あと1本が出なかった。大角監督は試合後、「悔しい。悔しいという言葉では片付けられない」「選手たちはよくやってくれた」とコメントした。
この敗戦もまた、43歳の指揮官を鼓舞し、夏の飛躍へつながる試合となることを願っている。