「初任給40万円」で話題になった「80時間分の固定残業代」は問題ないの? 社労士に聞いた懸念点と、就活時のチェックポイント

八幡 康二 八幡 康二

2024年3月に、セレクトショップ「STUDIOUS」やファッションブランド「UNITED TOKYO」を展開する株式会社TOKYO BASEが、新卒採用の初任給を40万円に引き上げることを公表し、話題になりました。

なお、新卒採用の就職情報サイト「リクナビ2025」に掲載されている採用情報によると、初任給の内訳は基本給が203,000円で、80時間分の固定残業代172,000円を含むとされています。ここに一律手当が加わることで、給与が40万円となるようです。

この80時間分の固定残業代というのは、労働基準法で定められている時間外労働の上限45時間を超えていますが、問題はないのでしょうか。また就職・転職情報を調べる際は、雇用条件のなかでもどのような点に気を付けるべきなのか、こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。

ーーそもそも固定残業代とはどういう意味でしょうか。

一般的な時間単価で定められた残業代は、実際に残業した時間に応じて支払われます。一方で固定残業代は、予め残業代として支給される金額が決まっています。今回の事例でいうと、従業員の残業時間が80時間に達しなくても、80時間分の残業代が支給されます。また、残業時間が80時間を超えた場合は、超過分の残業代も別途支給されるのです。

ーーこの制度にすることで企業側にはメリットはあるのですか。

固定残業代を導入すると、人件費の予想がしやすくなる点が1番のメリットでしょう。残業時間の増減に関わらず人件費が一定金額と考えることで、資金繰りの計画がしやすくなります。

ーーではデメリットはどんなものがあるのでしょうか

管理者次第ではありますが、残業の強要に発展しやすいです。例えば効率よく仕事をして早く帰ろうとしている従業員に対して「固定残業時間分の残業をしなさい」と話す上司がいるという話はよく聞きます。このような発言をする上司がいると、職場の士気が下がり離職の原因にもなってしまうのです。

ーー80時間の固定残業代は、労働基準法から考えたら問題ではないでしょうか。

労働基準法では、時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間となっています。臨時的な特別な事情があったとしても、最大で年720時間以内です。仮に80時間分の残業を毎月行うとするならば、この上限規制を大きく上回ってしまいます。

過去の判例では、月80時間分相当の時間外労働に対する固定残業代の定めは、公序良俗に反し無効と判断されたケースもあります。今回のケースも同じ80時間分の固定残業代であるため、公序良俗に反すると判断される可能性は否めません。

ーー就職活動をしている人にとって、このような固定残業代を設定している企業を選ぶメリット・デメリットはありますか?

収入が安定するという点はメリットでしょう。残業の有無に関わらず同じ給与が支払われるため、ライフプランも作りやすいです。また効率よく働けば、収入を確保しながら時間も確保できるため、趣味や家族サービスなどを充実させられるのもメリットといえます。

一方、デメリットは基本給が低く抑えられている場合があることです。基本給は残業代や賞与、退職金を算出する際の基準になるため、低く抑えられるとそれらの金額まで低くなってしまいます。

また、中小企業などで求人広告を行う際に、待遇をよく見せたいがために、基本給18万円と記載するより、月給22万円(固定残業代4万円含む)と記載するケースがあります。後々のトラブルを防ぐためにも、就職活動の際には基本給がいくらなのか確認することをおすすめします。

固定残業代については、法律家の間でもセミナーが開催されるなど、複雑な事案となっています。もし現在勤めている会社の給与について疑問に感じることがあれば、会社に直接確認するのもいいですが、まずは無料相談などを利用して弁護士などの専門家に尋ねてみるのもいいでしょう。

◆香川昌彦(かがわまさひこ)/社会保険労務士
人脈ゼロから事業を成長させ200社以上の経営を支え、「社労士オタク」と称されるほど就業規則に熱中。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。個性を活かし幸せに働く職場環境づくりに貢献している。

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