育児を楽にオシャレに!と、乳児用の粉ミルクを自動で作る海外製「自動ミルクメーカー」を紹介した育児系アカウントの投稿がX(旧Twitter)で話題になった。
日本国内で市販されている粉ミルクは安全基準をクリアしているが、調製粉乳には乳児の命に関わる「サカザキ菌」などの有害な細菌がわずかに含まれる可能性があるという。そのため、粉ミルクは必ず70℃以上の湯で調乳し、約40℃程度に冷まして与えることが必須となっている。
しかし、米国製とされる当該ミルクメーカーは調乳温度を70℃以上にはできないという。
乳児の命に関わる事態に対し、多くの小児科医や医療関係者らが注意喚起のポストを投稿。そんななか、「サカザキ菌」の危険性と粉ミルクの作り方がひと目でわかる別名を小児科の医師、せいむ先生がXで提案。2万6千以上のいいねがついた。
「70℃以下の調乳で乳児が腸炎や髄膜炎を発症して死に至る細菌」
「サカザキ菌って名前がなんか油断するから、『乳児70℃以下致死性腸炎髄膜炎菌』とかにすればみんなミルク70℃以上に温めるでしょ」
せいむ先生の提案した名称からもわかるように、とくに1歳未満の乳児が「サカザキ菌」に感染した場合、「敗血症」や「壊死性腸炎」を発症する可能性があるという。重篤な「髄膜炎」や「脳炎」を併発すれば死に至ることもあり、その死亡率は20~50%だという。
だが、「サカザキ菌」は70℃以上の温度で不活化するため、厚生労働省のHPに掲載されたガイドラインにも、「乳児用調製粉乳の調乳に当たっては、使用する湯は70℃以上を保つこと」と明記されている。
「母親学級では、海外や輸入ミルクで発症したという話を聞いた。日本での発症例ってあるんですか?」というリプライに、「日本でも発症してますよ!特に低出生体重児は注意です!」と返信していたせいむ先生に、「乳児70℃以下致死性腸炎髄膜炎菌」こと「サカザキ菌」について、お話を聞いた。
ネットの情報に左右されないで
ーー小児科医から見た「サカザキ菌」はどんな感染症ですか?
「発症頻度は低いですが、発症すると重症になるため、予防が大事な感染症です」
ーー「日本では発症していないのでは?」といった誤解も少なくないようですね。
「発症頻度が低いので認知度も低いのかもしれません…。実際に『サカザキ菌』に感染した乳児を診療した経験のある小児科医も少ないと思います。私が子育てした時は60℃でも大丈夫だった…というお母さんもいるかもしれません。ですが、感染した時の重症度を考えると、絶対に予防しておくべき疾患です」
ーー小児科医として、保護者の方に知っておいて欲しいことはありますか?
「ネットで調べた情報に左右されず、かかりつけの小児科医の話や、厚労省、小児科学会などの公的機関が提供している情報を大事にしてください」
◇ ◇
Xでは、「海外では水やぬるま湯で作るのが普通」といった投稿も見受けられたが、内閣府「食品安全委員会」のHPによると、アメリカでは2021年9月から2022年1月にかけて、米大手メーカーの粉ミルクを飲んだ乳児4人が「サカザキ菌」による感染症にかかり、うち2人が死亡しているという。
せいむ先生の話にもあるように、耳心地のいいネットの情報に惑わされず、気になることや疑問に思うことがあれば、かかりつけ医に相談したり、公的機関の情報を確認するのが賢明だ。