王子動物園の33歳ホッキョクグマ「ミユキ」突然の別れ 直前まで寄り添った飼育員「持病あってもがんばった」

茶良野 くま子 茶良野 くま子

雪山に駆け上がったりプールに豪快に飛び込んだりと元気いっぱい走りまわる2歳のホッキョクグマ「ゆめ」(メス)。神戸市立王子動物園へ2023年暮れに来園して大人気ですが、今、この場所にいるはずの国内最年長33歳「ミユキ」(メス)の姿はありません。歳の差コンビの交替展示が軌道に乗り始めた2024年初め、別れは突然訪れたのです。

ミユキは大阪の天王寺動物園で1990年11月に生まれました。王子動物園では同じ歳のオスと暮らし、2015年からは1頭で過ごしてきました。一方、ゆめは北海道の旭山動物園で2021年12月に誕生。同園での次の繁殖のため、日本動物園水族館協会による管理計画に基づき、親離れして王子動物園にやってきました。ゆめ、ミユキの飼育について担当の前野美紅さんに聞きました。

ーーミユキにとっても大きな環境の変化でした

「高齢で持病のあるミユキへの影響を最優先に考えながら、お互いどんな反応をするか、交互展示でミユキの生活にどんな影響があるか、様々なことを想定して話し合い、お互いに良い刺激になることを願い受け入れ準備を進めました」

ーーゆめ来園後のミユキの様子は?

「12月3日早朝、ゆめが到着。屋外展示場にいたミユキは室内の方を気にしながら、落ち着かない様子で一日中歩き回っていました。2頭が初めて顔を合わせたのは来園2日目の閉園後です。すだれで姿が見えないようにしていましたが、互いに威嚇を始めたため、外すとこに。はじめは威嚇しあっていましたが数十分経つと落ち着きました」

 ーーミユキが寝室に入れない様子も

「最初の2週間くらいはなかなか寝室に戻らず夜間も屋外放飼する日もありましたが、徐々に慣れて戻るようになりました。それ以降、食欲も旺盛で薬もしっかり飲んで、いきいきと過ごしていました。1頭で暮らしてきたミユキにとって、ゆめの存在が良い刺激になったのかなと思いました」

「ミユキはとても警戒心が強く慎重な性格。丸々としたシルエットが特徴的で、豪快に雪山をかき分ける様子は老いを感じさせませんでした」と前野さん。ゆめも次第に落ち着きを見せ、12月21日から午前午後の交替展示をスタート。年齢も体格も異なる2頭を見られることを多くの人が期待していましたが…。

「前日もミユキは普段通り展示場でくつろいでいて、夕方のエサもよく食べていました。何も異常がなかったのでいつも通り『おやすみ』と言って鍵を閉めました。翌朝、ホッキョクグマ舎の扉を開けるといつも起きてくるミユキが寝たままだったのでおかしいと思い近づくと、亡くなっていました」

2024年1月13日朝のことでした。

公式サイトでは後日、肝疾患が疑われ投薬治療を行っていたこと、食事量が減らないよう給餌回数を増やし、生肉は消化しやすくして与えるなど、慎重にケアしていたことが紹介されました。

前野さんは「突然の別れだったのでとてもショックでした。でも、苦しんだ様子がなかったのが救いでした。肝臓が悪い状態にもかかわらず、そんな様子を見せずに33歳まで生きたミユキは本当にすごいと思います。たくさんの方からメッセージやお花をいただき、とても愛されていたことを実感して心が温かくなりました」と振り返ります。

白くふくよかな体に、ホッキョクグマにしては丸い顔、どこか上品な雰囲気がファンから愛されていたミユキ。雪山に大きな穴を掘ったり、吹き付ける人工雪に牙を向く場面も人気でした。いつしか熱心なファンが呼び始めた「灘の貴婦人」の名は同園季刊誌にも登場し、いつしか“公認”に。

対して眩しいほどに真っ白で、好奇心旺盛で何にでも興味を見せ、一瞬目を離すと見失うほど機敏な動きを見せるゆめにも、これから多くの人に親しまれる呼び名が生まれるかもしれません。

同園では、ゆめのために安全を考慮した遊び道具を用意し、時間をかけて食べられるようおやつタイムの準備にも力を入れ、牛骨などを与えることもあります。

前野さんは「ゆめはまだ2歳と若いので、これから元気に成長してもらえるよう飼育環境を工夫し、日々の健康管理に努めていきます」と話してくれました。

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