保護犬・保護猫が注目を集めるにつれ、こんな声を聞きます。
「保護犬を迎えるのって難しい?」「保護犬は馴れないんじゃないの? 怖いんじゃないの?」
保護犬・保護猫は、人馴れが乏しいばかりか、人間に対する警戒心がなかなかぬぐえない子がいるのも正直なところです。しかしこれまでに多くの保護犬を救ってきた団体、ピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)の担当者は言います。
「個性的なワンコとして迎え入れてみてはどうでしょうか」
特に元野犬として動物愛護センターなどに収容された犬の中には、それまで一度も人間と触れ合ったことがないワンコも多くいます。こういったワンコは人馴れトレーニングを実施しても、必ずしも人間のペースにピッタリ合わせられるようになるとは限りません。
2021年に広島県の動物愛護センターから引き出された元野犬でオスのワンコ、美勇人もそんな個性的な保護犬でした。
「俺はこんなところにいたくない!」
ピースワンコが引き出した当初の美勇人(みゅうと)は生後3カ月ほど。生まれ間もなくして保護されたことで「野犬」として生活していた時間が短いことから、人馴れもスムーズに進んでいくようにも見えました。
しかし、初めての人の前では激しく吠えて威嚇。当初はピースワンコの個室犬舎で過ごしていた美勇人でしたが、施設内の都合で、他のワンコと一緒に生活する「大部屋」へ移動した際には、当初こそ仲間のワンコたちと楽しそうに過ごしていたものの次第にストレスが溜まったのか、人間に対し「俺はこんなところにいたくないんだよ!」と噛みつくそぶりも見せました。
ワンコ同士の力関係の争いからか、同室のワンコを攻撃するようになってしまいました。
ボラさん宅に移動後に一変
スタッフは、ピースワンコに協力するボランティアの家に美勇人を移しました。「ボランティアさんに噛み付いたりしたら…」と不安がなかったわけではないですが、状況から考えて最善策と判断しました。
不安は杞憂でした。あれだけ攻撃的でピリピリしていた美勇人が、次にスタッフに会った際には目をキラキラと輝かせ「久しぶりっすね!」と尻尾をブンブンさせ、飛びついてきました。ボランティアに預かってもらいたった数日でした。
ボランティアは美勇人を日に何度も散歩に連れていき、家族にもたくさん遊んであげていたそうです。美勇人は次第に心を開くようになり、やがてボランティアの家にいる先住犬とも一緒に遊ぶようになったとのこと。いっぱい遊んだ後は、ぐっすり眠っているとも。
そんな美勇人の様子を見た近所の人たちからは、「良い子だねー」なんて褒められることもあり、以前のピリピリした様子は一切なくなったそうです。
本来の美勇人は遊ぶことが大好きで、甘えん坊で、かつてのような性格ではなかったのかもしれません。スタッフは人員不足の事情もありますが、美勇人にたっぷりの愛情を注いであげられなかったことを反省しました。
「個性的なワンコ」として接するのが理想
人馴れし、本来の性格に戻った美勇人ですが、後に「迎えたい」という里親希望者が現れ、見事幸せな第二の犬生を送ることになりました。
ワンコによって何がストレスになり、何が喜びになるかは一匹一匹異なり、「体を動かすことが好き」「でも散歩は苦手」というワンコもいます。
この点だけを見て「保護犬を迎えるのって難しい」「保護犬は馴れない」と判断しないでください。「個性的なワンコ」として迎え入れ、その犬に合わせて接することで、やがて美勇人のように人間に心を開き、そして笑顔を見せてくれるようになるのだと思います。
「個性を伸ばす」ように迎え入れるのが理想です。
ピースワンコ・ジャパン
https://peace-wanko.jp/