何十年も前のお願い「きちんと取っておいて」 被災者が博物館に連絡…おかげで崩れた土蔵から救出できたのは

谷町 邦子 谷町 邦子

地域にとってありふれた存在…それが地震で消えてしまう危機に。一見するとそうは見えないかもしれませんが、博物館が発見した「大事な物」が話題となっています。

能登半島地震で壊れた土蔵の持ち主から連絡を受けて、「氷見市立博物館」(富山県氷見市本町)が発見したのは『富山県農地解放者同盟 会員名簿』と書かれた農地関係の書類、軍服、アルバムなど。いわゆる芸術作品といった品ではありませんが、歴史的資料として価値があるものばかり。

こういった地域の歴史的資料を守るための活動について、同館の学芸員、廣瀬さんに聞きました。

コミュニティが解体されることになってしまっても…

今回の品々が見つかった土蔵は、地震により蔵の壁が崩れて穴が開いてしまったため解体することに。そんな大変な状況のなかで連絡があったのは、あるひとことを所有主が覚えていたことからだそう。

「実は何十年も前に、当館から学芸員が見に行って、『(土蔵の中にあるものは)大事だからきちんと取っておいてくださいね』とのやり取りがあったそうです。『博物館から大事にしとけ言われたけれども壊すことになりました』と問い合わせがあり、博物館で確認して残すべきと判断したものを寄贈して頂きました」

今回、レスキューされた資料の価値については、「農地関係の資料は初めて見たもので、戦後、農地解放で土地を取られる側の地主さんの名簿でした。当時の大地主の人たちは農地解放をめぐって国家補償を求めていく際、同盟を作り団結して対応していたようです。氷見でも同様にそうした同盟が作られたのでしょう」と、終戦直後の氷見市の大地主と小作人との関係や、農地解放を知る上で価値があると言います。

「氷見市は定置網漁が盛んで漁師さんが数多くいらっしゃる街で、定置網を仕切る網元さんは陸の上では地域の地主さんです。小作人の人は漁師さんで、漁業と農場が密接に結びついている地域なので、名簿を見ると網元さんの名前も出てきます」

氷見の漁業についても博物館の大きな柱とあって、個人情報が記載されているため公開はできませんが、今後、研究や調査を進めていくうえでの資料になるそうです。

軍服に関しても「氷見市からもほかの日本各地と同様に、太平洋戦争の時は兵隊に行く人や銃後の生活で苦しんだ人がいて、地域の歴史のひとつです。従軍された方の軍服がしっかり残されている非常にいい資料で、戦争と氷見市の関わりを知るために重要になると思います」とのこと。

壊れた家屋とともに処分されないように

被災により著しい劣化の可能性のある文化財を安全な場所に移し、必要であれば応急処置などを行う「文化財レスキュー」について、Xで呼びかける前に2件、その後に4件、直接博物館に持ち込みされたのが2件、自宅の歴史的資料についての問い合わせが届いたといいます。

「地震から2週間ちょっと経った今、連絡を頂いていて、家の廃棄に伴って家で大事にしてきたものを捨てざるを得ない状況は増えてくるとだろうと思います」

生活を取り戻すための復旧のさなか、歴史的資料の保全について発信する氷見市立博物館には、SNSを通じて「そういうことをやってる場合じゃないだろ」との声が寄せられもしたそうです。

「当然、人命だったり生活だったりは優先されます。今回の地震で氷見市は奥能登ほど大きな被害はなかったとはいえ、液状化がひどいところなど、街ごと立て直さないといけないような地域もあります。もし、コミュニティが解体されてしまっても、歴史や培われてきた文化、どういった産業があったかなどを、博物館は、地域のあかしを形として残していくべきだと思っております。その上で、昔の道具、古文書も大事なものなのです」

将来的に文化財になる可能性も

今回の貴重な資料が保全されたことについて、「土蔵は残念だけど残せるものもある 良かったねぇ…」「え、凄い! 解体前に集められて良かった」「震災によって貴重な歴史的資料も廃棄される危機でもあるんだよな・・・」「先人たちの歴史と記録が残され、未来へと繋がることを願っております。…ひとまず安心です…」「学芸員の方々と博物館は大切な存在」など、関心の高さがうかがえる反応が寄せられています。

この「文化財レスキュー事業」は、阪神淡路大震災を機に組織され、東日本大震災、熊本地震などでも展開しています。レスキューの対象になるのは、地域で大切に守り伝えるべき有形文化財(美術工芸品、古文書、古写真等の動産文化財)および有形民俗文化財(生活用具、農具、漁具、信仰用具、職人の道具類などいわゆる民具)。文化財保護法や都道府県の条例により指定された指定文化財だけでなく、指定を受けていない文化財も含みます。

「氷見市立博物館」がある氷見市は、能登半島の付け根に位置し、商店や家屋、道路、上下水道などが被害を受け、段差や隆起が残る道路、断水中の地域があるなど復旧の途上に。同館も展示物や、照明、水道の復旧などで一時期休館していたものの12日に再開。常設展は通常通り観覧できますが、建物2階の廊下には倒れた棚にあったという書籍がずらりと並び、揺れで散乱した収蔵庫の片づけは手つかずといった状態だそうです(取材時の17日時点)。

そんな状態ながらも、未来へと地域の歴史をつなげるために、「未指定ではあったとしても、文化財に類するものとか準ずるもの、将来的に指定になる可能性があるものが、各地域に残されているんです。被災した建物から貴重な文化財が出てくる可能性もあるので、ぜひそういったものに目を留めてほしい。些細なことでも地元の博物館に情報を寄せてもらえれば」と、廣瀬さん。

ほかにも「高岡市立博物館」「石川県立歴史博物館」といった施設のほか、「宝達志水町」といった役場も同様に「文化財レスキュー」を呼びかけています。

■氷見市立博物館のXアカウント https://twitter.com/himicitymuseum
■氷見市立博物館の公式サイト https://www.city.himi.toyama.jp/section/museum/
■氷見市「【文化財レスキュー】令和6年能登半島地震に伴う文化財レスキューのお知らせ」 https://www.city.himi.toyama.jp/gyosei/soshiki/hakubutsukan/4/9356.html

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