日本には、高い技術を持ちながらあまり表舞台に出ることなく、コツコツとモノづくりを続ける工場や職人が多く存在しています。そんな普段は部品の一部でしかないものも、視点を変えたりデザインを変えたりして見せると、途端に新鮮でかっこいいものになることが実感できる投稿が話題になりました。
「大阪の基盤製造されてる社長さんから
凄いiPhoneケース頂きました。
今ではこの基盤は最新技術では無いのですが、活かして違う世界に進めてらっしゃいます。スマホの背面から出ている電波に反応してある部分が光ります(特許)
ちなみにこの基盤の図案どっかで見たことありませんか?何でしょう?」
こうXにポストしたのは「金谷 勉 @ CEMENT PRODUCE DESIGN(@cementblue)」さんです。一緒に投稿された写真には、ローマ字とライン、ドットがみっちりはいった黒地のカッコいいiPhoneケースが写っています。どこかでみたような図案と技術に、2.3万を超えるいいねがつきました。
「素晴らしい技術ですね。限られた面積に必要なものを綺麗に、効率よく収める。基盤回路で描かれているのは、東京近郊の路線図でしょうか。これまたユニークで素敵です🤭」
「右端の飛行機がNRT(成田)、真ん中の飛行機がHND(羽田)なので関東の電車路線図ですねこれ どの部分が光るんだろう」
「え、すごい…欲しい…」
こんなコメントが寄せられて、基板ってカッコいいとみなさんあらためて感じた様子です。金谷さんは、工芸や製造業の職人達の技術や想いを日々の暮らしにつなぐ仕事をされています。
今回紹介したiPhoneケースについて金谷さんは、「電子基板の世界では決して最先端の技術ではないのですが(今はファインセラミックに直接プリントする技術だったりしてます)、業界で縮小傾向にある中で、その技術を活かして異業種に展開されたこと。そしてスマホの背面から出る電波に反応して点灯させる特許を取られたことがすごいと感じています。ちなみに、こちらの『東京回路線図』は東京駅が点灯し、『関西回路線図』は大阪駅が点灯します」と解説。
さらに「何よりすごいのは自社商品を自分たちで頑張って開発されたことです。ショップのバイヤーさんとの壁打ちをする流れで最初は基板をカットしたアクセサリー、そのあと駅の路線図から発想された名刺ケースが生まれ、iPhoneケースに繋がってきた企画です。さらにその後、ガンダム、エヴァ、ディズニーとのコラボでスターウォーズシリーズと大きく展開を広げてらっしゃいます」と話します。
『東京回路線図』を作る「電子技販」(大阪府吹田市)の代表取締役・北山寛樹さんに、詳しいお話を聞きました。
──このiPhoneケースは、基板と同じ工程で作られているのですか
実際の基板と全く同じ工程ですし、機械装置も同じです。手順としては、CAD設計→生基板製造→電子部品を実装(はんだ付け)→コーティングです。工業用基板もお客様によっては防湿コーティングをしていますが、雑貨のコーティング剤とは違います。雑貨用は透明度が高く、黄色化しにくいものを使っています。
──なるほど。なぜこのような商品を作られるように?
2014年から基板アート雑貨事業に進出しました。廃基板を切ってネックレスやピアスにして展示会で並べたのが始まりで、代官山蔦屋書店のバイヤーから男性雑貨を作ってほしいと言われたのがきっかけです。
東京の路線図デザインは、私が東京出張した際に、複雑な東京の路線図が基板の回路図に似ていると思ったところからデザインしました。私はデザインを学んだことはありませんが、線路を配線パターンで描き、駅には電子部品をはんだ付け、駅名を3レターで表記したら意外に良いデザインとなりました。このデザインを東京回路線図と名付けました。すると鉄道ファンからヒットし、関西回路線図へ展開したという流れです。
──部品としての基板もカッコいいと思ったことがありますが、それを雑貨にして主役にするという発想がとても面白いです。
基板アート雑貨事業を始める際に私が決めたキャッチフレーズは「基板とは完璧に計算された芸術である」です。基板はあくまで機能のために計算しつくして製造しますが、完成された基板は美しく、芸術的です。
──たしかに繊細な美しさを感じます。基板アート雑貨は、オンラインショップで買えるのですね。
「基板は芸術である」のでミュージアムショップで売られないといけないと思い、コネなしでセールスしました。今では、東京都美術館、国立新美術館、すみだ北斎美術館、DIC川村記念美術館のミュージアムショップでも販売されています。
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基板アート雑貨は、iPhoneケースのほか、ICカードケース、キーホルダーなどもあり、回路線図は東京・大阪のほか、京都、ニューヨーク、パリもあります。メインの駅が光る仕組みは、iPhone自身が発する電波を電力に変換し、昇圧することでLEDが光るようになっており、電池無しでLEDが光る回路は2020年に特許を取得しています。
■PCB ART moeco(東京回路線図などの基板アート雑貨のオンラインショップ) https://www.moeco.jp.net
■アプリでメッセージが変更できるウェアラブルLEDディスプレイ https://www.denshi-gihan.co.jp/anode/
■電子技販 今後のイベント出展予定
2月6日から8日 東京ギフトショー(東京ビッグサイト)
3月12日から15日 JAPAN SHOP内IDMブース(東京ビッグサイト)
4月27日から28日 ニコニコ超会議(幕張メッセ)
【金谷 勉さんプロフィール】
1971年大阪府生まれ。大学卒業後、企画制作会社に入社。広告制作会社勤務を経て、1999年にデザイン会社「セメントプロデュースデザイン」を大阪にて設立。
大阪、京都、東京を拠点に企業のグラフィックデザインやプロモーション、商品開発のプロデュースに携わる。全国各地の町工場や職人との協業プロジェクト「みんなの地域産業協業活動」を始め、700を超える工場や職人たちとの情報連携を進めている。職人達の技術を学び、伝える場「コトモノミチat TOKYO」を東京墨田区に、大阪本社に「コトモノミチat パークサイドストア」を自社店舗も展開。(https://coto-mono-michi.jp)
経営不振にあえぐ町工場や工房の立て直しに取り組む活動は、TV番組『カンブリア宮殿』や『ガイアの夜明け』(テレビ東京系列)で取り上げられた。各地の自治体や金融機関での商品開発講座を行い、年間200日は地方を巡る。
京都精華大学や金沢美術工芸大学、近畿大学でも講師を務め、2018年京都精華大学 伝統産業イノベーションセンター特別共同研究員に就任。
2021年より京都精華大学客員教授に就任。2019年1月(地独)京都市産業技術研究所 アドバイザーとして就任。 自著に『小さな企業が生き残る』(日経BP)