商店街に支えられ書家デビュー20年 野口みずきさん応援横断幕も制作「好きなことを仕事にするのは大変だけど、できる」

京都新聞社 京都新聞社

 京都三条会商店街(京都市中京区)で書家として育ち、商店街が応援する五輪金メダリストのための横断幕作成も手掛けた男性が、デビュー20年を迎えた。地域に根ざした商いをする店主らの温かな支えに感謝するとともに、「好きなことが仕事になると、子どもや若者に伝えたい」との思いを新たにしている。

 大阪市出身の福永象啓さん(43)。16歳から同市の書道団体で学び、花園大(中京区)に進んだ。2003年、大学卒業と同時に商店街の貸しスペースに机1台を借り、小さな書道教室を始めた。「新しすぎず、その土地の商店街」という風情に引かれたという。

 当時はシャッターを閉じた店も多く、商店街振興組合事務局は「若い人が来てくれた」と歓迎。アルバイトで生計を立てながら書を教える福永さんの姿は次第に知られるようになった。04年、教室は組合事務所2階へ移転し、店主やその子どもの中から教室に通う人も出始めた。

 07年には、商店街を雨天時の練習場としていたアテネ五輪金メダリスト野口みずき選手を応援する横断幕制作の依頼を受けた。大役を任された福永さんは、野口さんの走る姿から「一足入魂」の文字を発案し、横4メートル、縦1・8メートルの幕に黒々と揮毫(きごう)した。アーケードに翻る自分の文字に「ようやく地域の役に立てたと実感した」。

 その後もイベントに参加するなど商店街とともに歩み続けた福永さん。駆け出しのころ個展開催にも窮した経験から、作家が無料で作品展示できるギャラリーカフェを始めたいという思いや、妻・真弓さんが表具作りなどを教える工房を開きたいとの希望もあり、19年12月、商店街近くのビルに拠点を移した。

 直後に流行した新型コロナウイルスの影響で教室は一時、閉鎖やオンライン対応となり、ギャラリーカフェ「WAKU」も2年ほど休業したが、1年ほど前からようやく軌道に乗り始めた。現在、書道教室には4~86歳の生徒約140人が通う。WAKUでは無料の作品展示を通じて出展者や来場者の交流が生まれる場所になりつつある。「好きなことを仕事にするのは大変だけど、できる。こんなおっさんが近くにいれば、子どもにも何か伝わるんやないかな」

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