秋の旅の楽しみはなんといっても日々色を変えていく紅葉を愛でること、そして美味しいものを食べ、さらに温泉があればいうことなし!
本当に? 何か見逃してはいませんか。
最近は各地に思わず身を置きたくなる「図書館」が作られているのをご存じでしょうか。地元の自然や歴史、工芸などを踏まえてその土地ならではの特徴を打ち出した、どれも体験しに行きたくなる「図書館」です。
「あの図書館に行ってみたい! よし、旅に出よう」これも素敵な旅のモチベーションですよね。
「石川県立図書館」
山奥だけど、隈研吾氏が設計「雲の上の図書館」
梼原町立図書館、通称「雲の上の図書館」は高知県と愛媛県との県境に広がるカルスト大地、四万十川の源流にほど近い高岡郡梼原(ゆすはら)町にあります。設計は隈研吾氏。木材は地元産の杉や桧を存分に使い、隈氏ならではの工夫された木組み構造が、森林に囲まれた梼原の自然と一体となって、他にはない魅力的な図書館となっています。
梼原町と隈氏の縁は長く深く図書館の他にも、隈氏設計の建築は梼原町総合庁舎や福祉施設といった住民サービスの機関から、ギャラリー、マルシェ、宿泊施設など観光向けの施設まで、町のあちらこちらで出会うことができます。
こんな山の奥になぜ? と疑問が湧くことでしょう。隈氏の心を捉えた梼原の魅力は、何よりも自然の豊かさを大切に守り育んできた町の人々の生き方だったのではないでしょうか。この地が開拓されたのは10世紀初めの平安時代からとのこと。明治維新には多くの若者が志をもって生き、坂本龍馬らが脱藩する時に通ったのも梼原でした。歴史が育んだ自然とともに生きながら知を鍛えてきた人々の土台あっての「雲の上の図書館」といえるでしょう。
館内に入ると広がるのは交流広場です。そこから段々になったステージを登ると2階は開架書棚が並びます。館内の本棚は「いろは順」に名付けられており全部で48。一般図書の他に「ゆすはら」「自然」「芸術」「歴史」「文化」などテーマごとにライブラリーが構成されており、ゆったりと見て回りたくなります。
館内にいるとふんだんに使われた木の香りと温もりに包まれ、落ち着きを感じます。ゆっくり本のタイトルを見て歩き、ふと開いてみたくなった本を手にとって、そこここに置かれたテーブルや椅子で読書する。旅先ならではの贅沢な時間の過ごし方が見つかりましたね。
参考:
【雲の上の図書館】
【ゆすはら雲の上観光協会】
高知県高岡郡梼原町 梼原町立図書館(雲の上の図書館)
スタバのコーヒー片手に読書「武雄市図書館」
武雄市本来の魅力は1300年の歴史をもつ温泉です。観光温泉の町として大勢のお客さまを迎え入れて発展してきた武雄市が作ったのが「武雄市図書館」です。JR西九州新幹線、武雄温泉駅から歩いて15分のところにあります。
この図書館の画期的なことは、コーヒーを飲みながら館内で本が読める、ということです。
図書館といえば、基本的に飲食は禁止。ここ「武雄市図書館」は館内にスターバックスコーヒーがあり、そこで買ったもの限定ですが、飲みものであれば閲覧スペースで飲むことができ、また食べものもテラス席や指定された場所であれば食べることができる、という全国的に見ても珍しい図書館なのです。
実はこの図書館、運営が「蔦屋書店」と同じということで、銀座や代官山、二子玉川の「蔦屋書店」と共通したコンセプトだと知ると「なるほど」と納得できます。
魅力は建物にもあります。ゆるやかなカーブを描く壁面は広々とした吹き抜けになって天井まで続き、すべて書棚となって本がずらりと並んでいます。その広がるさまを見れば感動が湧くことでしょう。1階の広いスペースでは大小の棚を利用したレイアウトに本が展示され、ゆったりと歩く時には足を止めたりしながら本を選ぶ楽しみを味わえます。
施設は他に「こども図書館」「歴史資料館」「シアター」をそなえ、ワークショップなど催し物も活発に行われているようです。本を集めた図書館というよりは、本を中心として色々な興味を持つ市民の楽しみを引き出して結びつける、そんな場所になっているのでは、と感じました。
伝統を持つ温泉街に都会的なコンセプトでつくられた図書館、どちらも身体も心も共に癒してもらえそう。ならば「行く価値あり」ではありませんか。
参考:
【武雄市図書館】
【武雄市観光協会】
佐賀県「武雄市図書館」
読書とおしゃべりが楽しめる「石川県立図書館」
「本を真ん中におしゃべりをして、いいんです」それは楽しいことではありませんか。「石川県立図書館」では基本的に館内はおしゃべりOK。とはいえ、静かな環境が必要な人のためにはちゃんと「サイレントルーム」が用意されており、どんな過ごし方も可能といえそうです。
2022年7月に開館した新しい図書館です。香林坊や金沢21世紀美術館といった観光スポットからは少し離れている、金沢大学工学部跡地に建設されました。
ここの一番の魅力は閲覧エリアではないでしょうか。柔らかい光が差し込んでくる吹き抜けの空間はなんともゆったりとした気分になります。広さゆえに歩き回っているうちに「今自分はどこにいるのだろう」とわからなくなってしまうかもしれません。そんなとき目印にできるのが「加賀五彩」を用いた色です。東は「草」、西は「黄土」、南は「臙脂」、北は「古代紫」とゾーンカラーが決まっているので、この色から自分の場所がわかるというわけです。色の用い方にも金沢の伝統を踏まえている、とはさすがと感じます。
本の並べ方にも工夫があるようです。「世界に飛び出す」、「仕事を考える」、「暮らしを広げる」、「好奇心を抱く」など、図書館の分類とは違った、ちょっと見てみたいと思えるようなテーマが打ち出されています。
本を選びながら「椅子」や「テーブル」にも注目すると楽しそうです。学習? それとも読書? 何人かでの打合せやデスクワークといったシチュエーションにより、テーブルが選べそうです。広い空間の各所に置かれていますから、シーン毎に「あそこ」「こっち」と考えられるようになれば、ここの図書館の楽しみ方もわかってきたようですね。
参考:
【石川県立図書館】
【図書館への行き方】
石川県金沢市「石川県立図書館」
旅先で「図書館」を楽しむ! 新しい旅の目的です
観光資源としての「図書館」の魅力はいかがでしたでしょうか?
今回ご紹介した図書館は町立、市立、県立と行政の規模は大きく違いますが、すべて公共の図書館です。もちろん入場は無料。誰でも入館ができるのが嬉しいですね。
どの図書館も建築面と運営面で、地元の自然や歴史を大切にした工夫が光り、個性となって大きな魅力を放っているといえましょう。
秋の旅の目的に「図書館」を加えたくなったのではありませんか?