元CAが語る「日本で営業する飲食店は損をしている」 サービスへの期待値は“インフレ状態”?

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海外旅行や海外生活の経験がある人なら、少なからず1度は思ったことがあるはずだ。

「日本のサービスって最高だよね」と。

とはいえ、その感覚が日本の飲食店のサービスのハードルを上げてしまっているらしい。
一生懸命に心を尽くしてやってもお客さんが満足しない…そんな状況だとすれば、飲食店側だってやってられないだろう。

そこで、国内外の飲食店に精通し、サービスとマナーのプロフェッショナルでもある元CAの飲食コンサルタントに話を伺った。

■Aさん
大学卒業後、大手航空会社にて客室乗務員として2022年まで勤務。2021年より現在まで、株式会社citrusの「CA副業サポート」にて飲食コンサルタントとして参加する。

世界1位のレストランはやっぱりすごい

――これまでのご経験のなかで、すごくよかったというお店はありますか?

Aさん 海外のお店なんですが、デンマークの「noma」で食事をしたときは、お料理を楽しむという概念が変わりました。

——そりゃあ世界1位を5回も獲っている名店中の名店ですから…。今年の3月には京都で期間限定営業をしていたりと日本とも縁が深いお店ですが、デンマークの本店に行ったというのはすごいですね。

Aさん 料理が美味しいのはもちろんなんですけど、使っている食器もすべて現地の作家さんがお店のために作っているものだったりと、あらゆる場所にお店のこだわりが詰まってたんです。
目で見ても、味わっても、サービスも、お店という空間自体もどれも一流で感動的な体験でした。

――食器や空間までよかったとのことですが、やはり美味しいだけではダメなんでしょうか?

Aさん お料理が美味しいことももちろん大事ですが、私個人として優先順位をつけるのであれば、サービス、空間、味の順番で大事だと思っています。だから味がいまいちなチェーン店だったとしても、接客などのクオリティが高かったら居心地よく感じますし、また来ようって思えます。

――たしかにまた来たいと感じるどうかは、驚くような美味しさの料理というよりも、店内の居心地のよさに左右されているような気がします。

日本の飲食店は期待されすぎ…?

――ちなみに、国内ですごくよかったお店はありますか?

Aさん 日本はサービスへの期待値がすごく高いので難しいですよね。
これは私の経験ですが、フランスに有名なオムレツ屋さんがあって、客室乗務員時代のステイ中に行ったことがあるんです。オムレツはもちろん美味しいし、雰囲気や空間、サービスもすごく良かったことをよく覚えています
その何年かあとになって、都内に国内1号店ができたので同僚と行ったんです。お料理はすごく美味しくて記憶通りだったんですけど、サービスがどうもいまいちに感じられました。

――本店ほど行き届いていなかったということでしょうか?

Aさん いえ。それはそのお店のサービスがダメだったっていう話ではないんです。サービスはフランスと日本で何も変わらなかったと思うんですけど、わたしたちが期待していたサービスの質が高かったせいか、物足りなく感じてしまいました。

――確かに海外よりも日本のほうがサービスが高いと言われますし、無意識に期待している部分はあるかもしれませんね。

Aさん そうですね。日本人が飲食店を利用するとき日本と海外では求めているものが違っていて、飲食店に求められているサービスのハードルが自然と高くなっているのかなと思います。

――日本の飲食店はサービスにおいてハードな要求をされているわけですね…。

Aさん もちろん場所以外にも、たとえば値段や評判などいろいろな要素があってお店への期待が設定されています。
たとえばチェーンの居酒屋だったら気にならないはずのミスも、3万円以上のコース料理を出す高級店で同じことをされたら残念に感じるという人も多い思います。
あとは、SNSなどで話題になったり、人気が出たばかりのお店も、お客様の期待値が高くなっているので、サービスの質には注意が必要ですね。

――料理や空間はすぐに変えるのが難しいですが、サービスというのは工夫と心掛け次第ですぐにでも変えていける部分でもありますね。いいサービスっていうのはどういうものなんでしょうか?

Aさん 固定的にこういうサービスって言えないものが、本当に優れたサービスだと思います。
マニュアルももちろん大事ですが、そこから一歩先に進んでお客様と1対1の関係であることを意識したサービスを実践できているかはより大切にしたほうがいい部分です。
実際、ミシュランで星を獲り続けていたり、長く続いているようなお店は自由度の高いお客様に寄り添ったサービスが実践できているからこそ、愛されるお店になっているんだと思います。

   ◇

Aさんが実際に感じてきた通り、サービス大国・日本のサービスへの期待値は完全にインフレ状態なのだろう。
おまけに本当のいいサービスはマニュアルでは達成できないというのだから、飲食店に課せられるハードルがあまりに高すぎて、だんだんと可哀そうにすら思えてくる。

とはいえ、見方を変えればそれは日本人が積み上げてきたホスピタリティ精神の賜物でもあるのだろう。取材を通して、世界に誇りうる日本の姿を再発見できた気がした。

■取材協力
株式会社citrus

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