一流のサービスとマナーを備えたプロフェッショナルと言えば、思い浮かべるいくつかの職業のなかに、飛行機の客室乗務員というのがある。丁寧で細やかかつスマートなサービスは、端的にカッコよく、CAが憧れの職業になる1つの大きな要因ではないだろうか。
そんなサービスとマナーのプロフェッショナルが自身の知見を存分に奮い、飲食コンサルタントとして活躍しているという。早速アポを取り、華やかなCAが目撃してきた飲食店の姿を直撃してみた。
■Aさん
大学卒業後、大手航空会社にて客室乗務員として2022年まで勤務。2021年より現在まで、株式会社citrusの「CA副業サポート」にて飲食コンサルタントとして参加する。
料理に髪の毛…お店側の正しい対応は?
――これまで公私ともに、いろんな飲食店に行ってらっしゃると思いますが、ここはやばかったなぁっていうお店はありますか?
Aさん 皆さんも似たようなご経験があると思うんですが、前に旅行先ですごく人気のあるレストランに行ったとき、お料理のなかに髪の毛が入っていたんです。
――ありますね。ちなみにいくらくらいの料理だったんでしょう?
Aさん 3万円以上するコースでした。お店の人に伝えたら真摯に対応してくれて新しいものと取り替えてくれたので、それで後に尾を引くようなことはなかったんですけど、やっぱりちょっともやもやしましたよね。
――対応としてはそれじゃダメなんですか?
Aさん もったいないなって思います。まずコンサルタントの目線で言えば、既にお客様はイヤな思いをしてしまっているので、料理を新しいものに取り替えて食べ直すだけならイヤな思いのままなんです。だから最低でもプラスマイナスゼロにまで戻さないといけません。それには、ただ料理を取り替える以上のことが絶対に必要です。
――なるほど。1回マイナスになってしまった評価や気持ちは、普通以上の何かがないとゼロにすら戻らないというのは納得感がありますね。
Aさん 帰り際にチョコレート1個渡すとか、ちょっとの手間や気持ちでいいんです。もしかしたらそこでお店のファンになってくれるようなお客様になってくれるかもしれない。
クレームが起きたときのピンチを、いかにしてチャンスに変えていけるかが、長く生き残っていくお店の重要な要素の1つだと思います。ですので、髪の毛が入っていたことはもちろん残念でしたけど、そのあとの対応はとてももったいないと感じました。
「お店とお客」を「私と貴方」に
――クレームが起きたときって、それ以上クレームを広げないためにもどうしてもマニュアル的なクレーム対応になりがちな気がします。なかなかそこまで出来ているお店っていうのは多くなさそうですね。
Aさん これは気持ちの問題でもあるのかなと感じます。私が客室乗務員の立場で接客していたときも、万が一お客様からそういう声が上がったときは、そのお客様が実際にどう思って降りていったのかは分かりませんが、このフライトでよかったと思って降りてもらえるようにしようという気持ちで対応していました。
――気にかけてもらえるだけでも嬉しいものですしね。
Aさん そうですね。最終的には人と人の関係なんだと思います。「お店とお客様」という関係をいかに「私と貴方」という関係に変えていくかが大切な気がします。とくに今の時代はSNSでバズって人気が出たお店などは、忙しいこともあってか、スムーズにお客様をさばくオペレーションばかりに傾注していて、そういうサービスにまで気が回っていない印象がありますね。
でも長くミシュランを獲り続けていたりするような名店や地元の常連客でいつも賑わうような飲食店は、ミスやクレームの有無に関わらず、ちょっとしたサプライズのサービスをしてくれるところが多いと思います。
——忙しいときや人気が出たときこそ、もう一度サービスの質を見直す必要があるのかもしれませんね。
Aさん そうですね。ちなみに、そのときのレストランは既に閉店しています。私に起きたことと直接的な関係があるなんて思いませんが、日々積み重ねていくサービスの結果はちゃんと自分たちに返ってくるのかもしれません。
◇ ◇
もちろんミスをしないに越したことはないだろう。しかし完全に防ぐことが難しいからこそ、クレームのピンチをチャンスにという心意気が重要になってくるのは話を伺っていて納得した。お客さん1人ひとりに向き合い、柔軟なサービスを目指すことが本当の誠意と真心ということなのかもしれない。
▽取材協力
株式会社citrus