空き家で不思議な虫を見つけて調べてみると、国のレッドリストに選定されている絶滅危惧種だった―。愛媛県在住の男性(52)がSNSに投稿した謎の虫の動画が、注目を集めている。2センチほどで、カマキリのような黄金色の生き物が、のっそりと歩く様子。「最初はホコリの塊に見えましたが、動き始めたので虫だと分かりました。光に当たると、美しくも儚い存在に見えます」と男性。拡大すると、後ろ脚にほこりやゴミが絡まっている。地元の博物館によると、カメムシの仲間「ゴミアシナガサシガメ」、過去10年で見つかったのはごく少数という。
動画を投稿したのは、コンサルティングの仕事に携わる懸田剛さん。10月上旬、友人が管理する空き家の内見時、玄関の引き戸裏の日陰に止まっているのを見つけた。「なんだ、これ…?」普段から生き物の動画や写真を撮ってSNSに投稿しており、そっと動いてもらって撮影。拡大すると、華奢で、細かい毛がびっしり。調べると、絶滅危惧種のゴミアシナガサシガメの可能性も。Xに投稿すると反響は大きく、面河山岳博物館の学芸員で、論文も発表する矢野真志さんから現地調査させてほしいと、連絡があった。
カメムシ研究のプロたちも見つけられなかった珍種
矢野さんによると、ゴミアシナガサシガメは、国内では本州や伊豆の三宅島、佐渡島、四国、九州に分布する。生態には不明な点が多い上、発見例も少なく、環境省のレッドリストでは絶滅の危険が増大している「絶滅危惧II類 (VU)」となっている。ホコリやゴミがくっ付いていることから、命名されたという。愛媛県では1950年代に3頭、90年に1頭、近年では、2014年に岡山、19~21年に愛媛の古民家で10頭が確認されていた。
「人を刺すことはないカメムシで、クモを食べることが分かっています。夜行性で昼間は古民家や空き家の物陰でじっとしています。明かりに照らされると動画のように動き始めます。この個体は幼虫の最終段階と思われますね」と矢野さん。海外では洞窟で見つかった記録もあり、薄暗い環境に適応したカメムシだと考えられる。しかし、日本では生息する薄暗い古民家が少なくなり、明るく清潔でクモのいない家が多くなったことから、個体数が減少したのではないかと推測する。
カメムシ研究のバイブル「日本原色カメムシ図鑑」を執筆したプロたちが、生きた姿を掲載したくて探したが、見つからなかったという逸話が残る珍種。発見した懸田さんも「想像以上に希少のようで困惑しましたが…自然の美しさに驚き、感動しているコメントをもらい、私自身もうれしくなりました」と話している。