この夏、映画業界はヒット作に恵まれたこともあり、コロナ禍の中でも良いニュースが日々更新されてきた。一方で目を引いたのが映画館閉館のニュースだ。原因は、コロナ禍による動員減、収益減など様々。現在も建物の老朽化や収益が見込めないなどの理由で閉館の情報が聞こえてくる。
劇場の負担はコロナ禍から続く収益減だけではない。映画を映す「デジタル映写機」の耐用年数だ。
映写機のデジタル化は、2009年ごろから一気に進んだ。大手劇場がデジタル化を受け入れたことにより、映像素材のデジタル化が加速。小さな劇場も例外ではなく、デジタル化しなければ新作を上映できなくなることは目に見えていた。
一口にデジタル映写機と言っても、価格はピンキリだ。 中古でも500万円を優に超えるという。小さな劇場にとってはかなり大きな痛手だ。
デジタル映写機の問題は価格以外にもある。それが耐用年数だ。
機械は劣化していく。デジタル映写機も同様で、耐用年数がくると不備が出てくる。映画館の経営を続けるためには、新たな映写機を導入しなければならない。
「映画業界全体の問題だと思います」
そう語るのは広島県尾道市にある映画館「シネマ尾道」の支配人、河本清順さん。シネマ尾道は、今年の10月に開館15周年を迎える。現在は映画館存続のためにデジタル映写機の購入と、入れ替えを目的としたクラウドファンディング(CF)を実施中だ。「現在も中古のデジタル映写機を使っています。購入した当時も高額でしたが、これを購入しないと運営が難しく、私たちのような小さな劇場にとってはかなりの痛手でした」
オープン当時に購入したデジタル映写機は中古で600万円〜700万円したという。小規模な劇場は毎日の経営も難しい。河本さんはその問題を解消するため、今年CFを取り入れたそうだ。
CFを通して、映画館への思いを感じたという。
「コロナ禍でも思いましたが、映画館が地域にとって必要な場所なんだというのが確認できた。映画館への励ましの声が一番嬉しかったですね。今回のCFも支援金を募るのが目的ですが、劇場への応援がスタッフのモチベーションの一つになっています」
さらに河本さんは今回のCFで新たな発見があったという。
「映画館も『備えなければ』と考えますね。映写機は10年に一度、入れ替えが必要になってくる。オープン時は『映画館としてどこまで運営できるか』という不安があったが、現在は、映画館が10年後も生き残るために、金銭的な面も盛り込んだ長期的な『未来の計画』を立てることが大切だと思いました」
今年、シネマ尾道は、尾道市内を舞台にした『東京物語』を制作した小津安二郎監督の生誕120年記念イベント(主催:尾道市、協力:シネマ尾道)に携わるなど、映画館を通した活動を広げる。
映写機の入れ替えは10年に一度。これは避けられないことだ。デジタル映写機の問題は、全国の映画館に存在する。映写機の導入により、映画館がなくなるのでは元も子もない。取材を通して、その問題を少しでも解消するためには、CFも大切だが、やはり「映画館で映画を観る」ことだと改めて思う。
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クラウドファンディングページ 映画の街・尾道の映画館「シネマ尾道」の未来へ向けたプロジェクト(2023年10月31日まで)