金髪ロック&リアルな会話劇 平祐奈がやりたいことを詰め込んだ『ネムルバカ』

石井 隼人 石井 隼人

「自分ではない、そんな感覚」。俳優の平祐奈(26)が、3月20日公開の映画『ネムルバカ』で新境地開拓だ。

これぞやりたかった世界

『ベイビーわるきゅーれ』シリーズで一躍名を上げた阪元裕吾監督が、漫画家・石黒正数の同名コミックを実写映画化。大学の寮で共同生活を送る入巣柚実(久保史緒里)と先輩・鯨井ルカ(平)のゆるい日常とモラトリアムの終焉を描く。

映画ファンの間で大きな話題となった『ベイビーわるきゅーれ』。平も心を奪われた一人だ。

「仕事で訪れた福岡でたまたま映画館に寄って観たのが『ベイビーわるきゅーれ』。女子二人が織りなす会話の空気感とトーンがリアルで、まるで女子二人の共同生活をのぞき見している気分になって『これこそ私のやりたかった世界観!この映画を作った監督素敵すぎる!』と思ったのが最初の出会いです」

インディーズバンドを組み、音楽でメシを食っていくことを夢見るルカ役。持ち前の天真爛漫さを封印してヴィジュアルもバンドマン風に寄せた。

「金髪もロックな歌もギターも、普段の私にはないものばかり。しかも阪元監督ならではの独特な日常劇もある。『ネムルバカ』には自分がやってみたかったことの全てが詰まっていました」

リアルな日常生活感

ライブステージ以外ではローテンションになるルカを体現するために、声のキーや発声方法を意識的に変えた。演じながら「ギアを4つくらい下げた」感覚があったという。

「ちょっと気を抜くと普段の自分の明るさが出てしまうので、入巣とのダベリのような日常会話はテンポのリズムをあえて悪くして、ボソボソ声を意識。録音部さんにはご迷惑をかけたかもしれませんが、観客の方に『あれ?今何て言ったの?』と思われるくらいのリアルな日常生活感で演じてみました」

原作の雰囲気を忠実に再現する一方、映画オリジナルの脚色もある。驚くべきは、そのどれもが原作漫画に元々描かれていたかのような自然さを持っていること。例えば、エビのしっぽを使った天丼を食べさせられたルカが、入巣に静かに投げかける「バカなの?」というセリフと言い方。激高することなく、あえてローテンションでボソッと呟く様はルカの性格を表すとともに、シュールな笑いも生む。作り手も演者も、原作の持ち味を十分に理解し、リスペクトしているからこその改変だ。

「当初の脚本には原作に忠実に『ふざけんなっ!』というセリフがありました。でも阪元監督が決定稿にする前に私と久保さんの空気感を見たいと仰ってくれて、本読みをしました。特に天丼を食べるまでの流れは言い回しを変えたりトーンを調整したり、面白さが増すまで何十回も稽古した場面です」

誰もが共感できる物語

ライブの歌唱シーンは吹き替えではなく平が自ら歌い、ギターにも初挑戦。練習期間は数か月と短かったそうだが、目と指でコードを覚えて体に叩きこんだという。「歌もギターもド素人なので、難しくて苦戦しまくりました」と苦笑するが、その時間が役作りにおいて吉と出た。

「バンドの曲はアッパーなテンポでキーも高い。脳みそはパンク寸前でしたが、自分の中で苦戦している時間や家で一人ギターと格闘している時間は、そっくりそのままルカが通って来た道。そう考えると『今、私はルカを生きているんだ!』と思えたし、それがあったからこそ、乗り越えることが出来たと思います」

描かれるのは大学生二人を取り巻くゆるい日常。だが演じた平本人にとっては、ガムシャラな日常だったようだ。

「濃密な時間を撮影現場に置いてきた気がして、完成した作品を観た時は自分で演じたはずなのに、ルカが自分ではないような不思議な感覚に襲われました」と新鮮さを感じながら「阪元監督節も炸裂していて、ルカと入巣の日常は誰もが共感できるものだと思うし、明日も頑張ろうと思わせてくれる青春映画になりました」と手応えを口にしている。

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