2022年のゴールデンウィーク前のこと。北海道・増毛町エリアを、徘徊する北海道犬がいました。北海道犬は中〜大型の部類で、見た感じでは18キロほど。
このまま放置しておけば、人間に危害を加える可能性も考えられるため、連休明けに役場の職員が保護。その後、留萌保健所に収容されることになりました。れっきとした北海道犬なので、元野犬というわけではないはずですが、残念なことに飼い主の名乗り出はありませんでした。
このままだと殺処分対象になります。それを知った北海道の保護団体、HOKKAIDOしっぽの会(以下、しっぽの会)が、このワンコを引き出すことにしました。ワンコの名は国稀(くにまれ)。その巨体にして、保護当初はオドオドとし、臆病な一面を見せていました。
国稀は「ゼーゼー」と苦しそうに呼吸していた
しっぽの会のスタッフが「悪い人たちではない」「危害を加える人たちではない」ことを悟った国稀は、比較的早い段階で心を開いてくれるようになり、大好きなスタッフを見かけると、尻尾をブンブン振るようにもなりました。これもまた元飼い犬ならではの、国稀の人馴れからくるもののようにも感じました。
他方で、国稀は保護当初から、ときおり「ゼーゼー」と苦しそうに呼吸をすることがありました。リードやハーネスをつけ、少しの距離を散歩をしただけでも苦しそうにすることもあります。
心配したスタッフは国稀を大学病院に連れていき、詳しく検査をすることにしました。獣医師に国稀の咽頭の動きを見てもらうと、「おそらく軟口蓋過長症(なんこうがいかちょうしょう)が原因」とのこと。この病気は、口腔内にある軟口蓋が通常よりも長くなっていることで呼吸困難になるもの。この影響で腫瘍ができたり、喉頭麻痺(こうとうまひ)などの吸気障害を引き起こす原因にもなるという恐ろしい病気でした。
現状の国稀は腫瘍は見つからなかったのが幸いでしたが、この伸びた軟口蓋をなんとかしなければいけません。スタッフは獣医師と念入りに相談をし、国稀の長い軟口蓋を切断することに決めました。
喉頭麻痺の疑いがあるが、その手術にはリスクも…
無事、切断手術をした国稀でしたが、術後しばらく経ってもあの「ゼーゼー」が改善されませんでした。そこで獣医師からは「軟口蓋の切断で改善されないということは、喉頭麻痺だろう」という診断を受けました。
喉頭麻痺も手術によって治療することは可能です。しかし、喉頭麻痺の手術をすると、片方の喉頭を開きっぱなしにすることとなり、そうすると誤嚥性肺炎になる可能性もあるとのこと。ここは悩ましいところで、スタッフも獣医師もいったんは経過観察をし、その判断を今後慎重に見極めることにしました。
老犬や持病のある保護犬は「終生預かり」になるケースも
現状の国稀は、苦しそうにしながらも自力で呼吸ができ、食欲も見られます。そのため、しばらくは投薬で症状の悪化を抑え続けています。
保護されたワンコの中には国稀のように治療が必要な場合や、病気などで新しい里親さんが見つからないケースも少なくありません。そういったワンコは「終生預かり」として、しっぽの会ではそのワンコが命を全うするまで世話をし続けています。
こういったワンコたちの治療やお世話にかかる資金は、全国の支援者の方から金銭面での寄付や、物資面での支援によって賄われています。しっぽの会のスタッフはこういった方々からの支援に心から感謝を寄せるとともに、ハンデを抱えたワンコも1頭でも多くの命のサポートを続けていきたいと言います。
国稀は多くの方からの支援によって今日もしっぽの会で生活を続けています。しっぽの会の公式サイトなどで、ぜひ国稀の今後に注目していただければ幸いです。
HOKKAIDOしっぽの会
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