大阪・下町のお寺「100円」でお気軽「地獄体験」 QRコードで入場、閻魔大王の説教を聞いて…最後は瞑想で癒やし

平藤 清刀 平藤 清刀

大阪市平野区にある全興寺(せんこうじ)に、地獄と極楽を体験できるコースがある。地獄堂で閻魔大王から説教を受けた後、地獄の釜の音、賽の河原の石積みを体験した後は、仏様と赤い糸で縁を結んで、地下にある「ほとけのくに」で瞑想し自分の心と向き合う。まさに、地獄と極楽の両方を一度に体験できるのだ。

実は1400年余の歴史があるお寺

全興寺は聖徳太子ゆかりのお寺で、1400年余の歴史がある。かつて「平野郷」と呼ばれたこの地域は、全興寺を中心に発展してきたといわれている。そんな全興寺で、地獄と極楽を一度に体験できるコースがあると聞いて、ご住職の川口良仁さん直々にアテンドしていただき体験してきた。

お寺を訪れたら、まずはご本尊にご挨拶。取材の趣旨をご報告し無事を祈ったあと、寺務所へ川口さんを訪ねた。

まず100円で「地獄堂通行手形」を買う。これは一度購入すると、生涯有効だそうだ。

「なぜ有料かというとね、無料だと真剣に見ないんです。100円払ったということで、ちゃんと見てみようという気になるんです」

初めに案内されたのは、閻魔大王がいるという「地獄堂」。その入口に「極楽度・地獄度チェック」という、押しボタン式のチェックリストがある。Aのボタンを押せば極楽への道、Bのボタンを押せば地獄への道で、たとえば「A 感謝して真剣に努力する」「B 絶えず不平不満が多い」という選択肢がある。つまりポジティブな選択とネガティブな選択が全部で10項目あって、自分にあてはまるほうのボタンを押していくと、最後に閻魔大王のお裁きとアドバイスがいただける仕組みだ。ちなみに筆者はすべてA、すなわちポジティブな選択をしたのだが、閻魔大王からのアドバイスは「そんな奴はおらん」だった。

さて、いよいよ地獄堂へ入る。「地獄堂通行手形」に付いているQRコードをかざすと、地獄堂の扉が開く。正面には閻魔大王の坐像が怖い形相で鎮座しており、一方の壁には10人の裁判官、もう一方には、奪衣婆(だつえば)と三つ目の鬼が控えている。奪衣婆は死者の衣類を剥がして木にかけ、罪の重さを計る妖怪だそうだ。

「銅鑼(どら)を1回だけ叩いてください」

銅鑼? よく見ると坐像の下に銅鑼が設置されている。川口さんにいわれるまま叩くと、閻魔大王の横にある「浄玻璃(じょうはり)の鏡」に映像が映し出された。

閻魔大王が現れて「地獄とはどんなところか、お前たちに見せてやろう」というナレーションから始まる5分ほどの映像は、地獄の恐ろしさを解き、最後には「命はひとつきり」と命の大切さを解く内容になっている。

「うちのお寺の基本的なコンセプトは、子供たちにゲーム感覚で、遊び心で来てほしい。体験というのはそういうことやね。座らせて無理に姿勢を取らせて、動いたら叩くという経験をさせても、子供たちの印象に残るのは足が痛いだけ。そうじゃなくて、体験すると、理屈なしで感じてもらえる。それが一番だと考えています」

遊び心で仏様の教えの一部でも感じ取ってほしいとの願いが込められた施設であり、アトラクションではないのだ。

最後は「ほとけのくに」へ

地獄堂で閻魔大王の説教を聞き、命の大切さを教わったら、次は「地獄の釜の音が聞こえる石」だ。石に人間の頭が入る大きさの穴があいていて、そこに頭を入れて耳を澄ますと地獄の釜の音が聞こえるという。筆者が試すと、プツプツと何かがゆっくり弾けるような音を感じた。

「聞こえ方は、皆さんそれぞれです」

必ず聞こえるというわけではなく、何も聞こえない人もいるそうだ。

地獄の釜の音を聞いた後は、親より先に亡くなった子供が落ちる地獄といわれる「賽の河原」。石を積んだら親に会えると信じて無心に石を積むが、鬼がやってきて容赦なく崩す。そしてまた初めから積みなおし。それが延々続くわけだ。

「10段積み、やってみますか」と促され、やってみることに。どれも自然石なので、なかなか安定しない。8段積むのがやっとだった。

賽の河原を抜けると、「仏さまと赤い糸で縁結び」。地獄を抜け、ここから極楽の世界へ入っていく。おそらく、いちばん遊び心のあるポイントだろう。

ベンチの片側には、すでに仏様が座っている。その小指から赤い糸が出ていて、もう一方に自分が座って小指を合わせる。これで縁結び完了だ。なんと自撮り用のスタンドが用意されていた。

最後は「ほとけのくに」。地下へ降りていく階段の手すりには、お遍路さんが巡る四国八十八カ所の砂が収められている。川口さんが自ら巡って、各寺院からいただいてきたそうだ。手すりに触れながら階段を上り下りすれば、八十八カ所を巡ったのと同じご利益があるという。

地下に降りると、床にステンドグラスで描かれた曼荼羅があった。周囲の壁には、151体の石仏が収められており、靴を脱いで曼荼羅の上に座って瞑想できる空間になっている。

「これは密教の曼荼羅をステンドグラスにしてあります。曼荼羅は仏様の世界を描き、宇宙の理法のすべてが含まれています」

地元の中学生がここで瞑想している姿も、時折見かけるそうだ。

「地獄とは何かを簡単にいうと、欲望が渦巻いていて、そこから争いが生じる。現実の世界が地獄の様相を呈しています。死後に行く世界ではなく、現実の世界が地獄になっている」

現代人が求めているのは、安らぎであると説く川口さん。瞑想とは自分自身と向き合って、心から癒されることなので、誰でも瞑想していただきたいとのこと。

「お坊さんの役割は、いうなれば翻訳家みたいなもの。難しい教えを、現代的にどうするかっていうことです。奇をてらった体験じゃなくて、 説教をしなくてもいかに分かってもらうかがコンセプトだから、遊び心で来てください」

全興寺の地獄から極楽を体験できるコースは、20~30分ほど。最近では、外国人が訪れることも多いという。

最後の曼荼羅での瞑想は、都会の喧騒から離れて自分を見つめ直す機会になるかもしれない。

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