「仁王像の乳首を彫りました」
奈良仏師として仏像の彫刻をされている折上稔史さん(@NaraBusshi)。仁王像の特徴であるという“乳首”にまつわる話題を「X」に投稿し話題となりました。
仏像のなかで、仁王像のみ乳首を表現するのはなぜ?
折上さんによると、「仏像で乳首の表現をするのは仁王像のみ」だそうです。その乳首の表現にも、普通の乳首の形のもの、花乳首(花の形に似せたような形状の乳首)があるとのこと。
「どうして仁王像のみ乳首を表現するのか、この花乳首はいったい何なのか…皆さんの意見を聞かせて欲しいです」
折上さんがツイートでそのように呼びかけたところ、リプ欄には多くのコメントが寄せられました。
「仁王像の造形って見方によってはセクシーだから、より生の人間っぽいディテールを足したくなったのでは?と思いました」
「遠足か社会見学かなにかでどこかのお寺で聞いた気がするのですが…(中略)…人間に近いところから仏様に近いところに行くからその門を守る仁王さんは人間に近いお姿をしておられるのだと…」
「他の仏像は聖なる雰囲気で体つきも線が柔らかいけど仁王さんは筋骨隆々で人間に近い」
「乳首がある方が胸筋が強調されて立体感も感じるので、筋肉の力強さを表現したかったのかなーって思ってみています」
さまざまな考察が寄せられました。
「人に非ずを表現するために、生々しい乳首を避けたかったんじゃないかな~と考えちゃいます」
「おしゃれなニップレスみたいな?」
「甲冑を着る時に擦れると痛いので装着したニップレスという説もあります」
ほかにも、人間ではないことを表現するために、あえて違った形状にしているのではという意見や、甲冑を着る際に着けるニップレスなのではという見解など、多くの声がありました。
このような反響を受け、折上さんは「反響の大きさにびっくりしています。真面目なものやユニークな意見もあり凄く勉強になります」と感謝。ちなみに、“花乳首”という呼び方についても、「正式な呼び方ではないかも知れませんが、いいネーミングだと思いますので、今後もそのように呼ばせていただきます」と言及されています。
折上さんに聞きました。
――リプ欄のコメントのなかで、一番しっくりきたご回答はありましたか?
折上さん:「古い仁王像では通常の乳首の突起表現だったが、リアルすぎるため中世以降十二神将や四天王像などの甲冑装飾と同じような多弁系キャップが用いられるようになったのではないか」という意見が一番しっくりきました。
――表現のされ方にも種類や変化があるのですね。
折上さん:花乳首以外にも、通常の人体と同じような乳首を表現する場合もあります。また、乳首の位置についても、鎌倉期以降は少し上めに配置することで、女性の乳首のように表現するのが主流となりました。
――正直なところ、私自身、これまで仁王像の乳首について特に意識はしておらず、今回の話はとても勉強になりました。他にも仏師として仏像を制作するうえで、様式や決まりなど、あるのでしょうか?
折上さん:仏像には儀軌(ぎき)と呼ばれる基本法則があり、仏師は忠実に法則を守りつつ自分なりの仏さまを表現する努力をします。自由に何を彫っても良いのではなく、ある程度の制約の中での自己表現を目指すのが仏師の仕事です。
――仏師として、仏像のどのようなところに魅力を感じておられますか?
折上さん:自分がこの世からいなくなった後でも、多くの人の心の拠り所となる仏さまを残せるのが一番の魅力だと感じています。
◇ ◇
インタビューでもお話にありましたが、仏像も時代によって少しずつその様相が変わっています。
例えば、国内に現存する仁王像のなかでは最古とされている法隆寺の仁王像の乳首は、通常の乳首として表現されていますが、一方で東大寺の仁王像は花乳首で、その配置も女性のような位置となっているとのこと。
歴史のなかで多くの仏師の創意工夫により変化しながらも、今も昔も多くの人々の心の拠り所として存在し続けている仏像。「私も長い歴史の一つのパーツとして、永く人々の心の拠り所となる仏さまを残したいです」と折上さんは語ります。
そんな折上さんですが、一般の方に向けた仏像彫刻教室も開設。
「自分だけの仏さまを彫る時間は究極のマインドフルネスです。目の前のことにただ集中する時間が得られる機会は、普段はなかなか無いと思いますので、ぜひ一度体験して欲しいです」(折上さん)
教室については、折上さんのブログで詳しく紹介されています。
■折上稔史さんの(Twitter改め)「X」はこちら
→https://twitter.com/NaraBusshi
■折上稔史さんのブログはこちら
→https://narabussi.blog.fc2.com/