この暑さをどうやって乗り切ろうか? 気温の上昇に暑さ対策は必須の日々。手持ちの小型扇風機はすっかり定着したようす。この夏は冷却プレートの入ったネッククーラーに新たな注目が集まっているようです。次々と出てくる対策グッズと同時に忘れてはならないのが、昔から伝えられてきた涼やかさを演出する品々。日射しを遮る簾(すだれ)や葦簀(よしず)とともに、日々の生活の中で気軽に涼感を得られる「ガラス」に注目してみませんか。
食卓でヒンヤリ。輝くガラスの器たち
麦茶に冷や麦やそうめん、と冷たい飲み物や食べ物は暑い夏に欠かせません。キリっと冷やしたり氷を添えると同時に、ガラスの器を使えば一気にひんやり感が高まり食も進みそうです。夏になると使いたくなるガラスの器。透明感とともに削ったり磨いたりと細工を施したガラス製品の人気は変わりません。
日本のガラスは古くシルクロードを通って伝えられたといわれ、奈良の東大寺正倉院にも収蔵されています。その頃ガラスは「瑠璃(るり)」と呼ばれていました。その後再びガラスが伝えられるのは宣教師フランシスコ・ザビエルによってです。ポルトガル語で「ビードロ」と呼ばれました。江戸時代になりオランダとの交易が始まるとオランダ語の「ギヤマン」と呼ばれるようなったとも言われています。呼び名が時代によって変わったことがわかりますね。「ガラス」と呼ばれるようになったのは明治時代。工業化とともに建築にも使われるようになりました。
このような歴史の中で、ガラスの表面を削るという画期的な技術が開発されたのは江戸時代も終わりに近い19世紀前半。大変高度な技術で大いにもてはやされ、江戸文化特有の美的センスの中でガラス細工は磨かれました。黒船来航時にはペリーに切子細工が献上されたという記録も残っているそうです。
江戸切子や薩摩切子の名で親しまれているガラス細工は、透明なガラスの上に赤や青の色ガラスを被せて切り出します。切り口を通った光が屈折し色をまとい、さまざまな方向に向かって輝き美しさを生み出します。
暑さの中で食事はおっくうになりがちです。涼しさを感じさせるガラスの食器は同時に輝く美しさで食卓を明るくしてくれます。ひと時、暑さを忘れて美味しい食事を楽しむのもいいですね。
参考:
鈴木章生監修『江戸の職人 その「技」と「粋」な暮らし』青春出版社
切子ガラス
耳から感じる涼感は何と言っても「風鈴」
空調が整ってどこへ行っても快適な温度で過ごせるようになりましたが、外は暑い! 白く輝く日差しの強さの中で風に揺れる風鈴はなんと涼やかなことでしょう。鉄や貝殻など素材はさまざまありますが、薄いガラスの風鈴は澄んだ音の美しさと共に、存在のはかなさも相まって涼感をよびます。
≪風鈴のもつるるほどに涼しけれ≫ 中村汀女
≪風鈴の音の中なる夕ごころ≫ 後藤比奈夫
風鈴の音に耳をかたむける時、心はもう涼気を楽しもうと待ちかまえます。風により鳴る音は千差万別、音色を聞きながらホッと一息。思いをあちらこちらへと飛ばして涼みましょう。ゆったりと寛ぐ時間が暑さの中では大切ではないでしょうか。
≪売り声は上げずに風鈴売りが過ぐ≫ 朝妻力
こんな情景はもう見られなくなりました。たくさんの風鈴を揺らして歩けば、シャランシャランと鳴り響き、言わずとも風鈴売りが来た! と外へ飛び出してしまいそうです。夏の風物詩として懐かしいですね。涼やかな音を耳に響かせて、暑さの中を負けずに過ごしていきましょう。
「金魚鉢」眺める涼しさ!
夏の午後、懐かしく思い出されるのが「きんぎょ~、え~、金魚!」と独特の調子で街を歩いていた金魚屋さん。オレンジ色がキラキラと光る小さな金魚が水の中で揺れている、見ているだけでワクワクしてきます。
≪金魚売しやがめば子等もしやがみけり≫ 堀流水子
金魚が人々に愛好されるようになったのは江戸時代。藩士たちが副業として金魚の養殖を行ったことで人気に火がついたそうです。それまでは貴族の間で愛玩されていた高級品。庶民に手が届くようになると一気に夏の風物詩となりました。
≪金魚売露地深く来て汗拭ふ≫ 加藤楸邨
「金魚を飼おう」と思った時思い浮かべるのは、口がフリル状になった独特の形状をしたガラスの金魚鉢ではありませんか? 桶では張った水に放した金魚を上から見ているだけでしたが、丸いガラス鉢はどの方向からでも金魚が泳ぐ姿を楽しめるようになりました。曲面でデフォルメされる金魚の愛嬌ある顔もまた、ガラス越しの一興となることでしょう。
暑さ厳しい日はまだまだ続きますが、ガラスの透明感や美しさは、生活の中に涼しさを求める時に大いに助けになることでしょう。工夫して積極的に取り入れてみませんか。
参考:
吉田智子著『江戸創業金魚卸問屋の金魚のはなし』洋泉社