和歌山県那智勝浦町に、小さな吊り橋がかかっている。重量制限は、なんと「0.1t」。つまり100キロだ。もちろん自動車は通行できない。この橋を体重100キロの人間が渡ったらどうなるのか、那智勝浦町役場に聞いてみた。
和歌山・太田川にかかる「筑紫橋」
和歌山県那智勝浦町南大居を流れる太田川にかかる「筑紫橋」という吊り橋に、制限重量「0.1t」という規制標識が設置されている。
那智勝浦町役場建設課管理課係によると、この橋は「町道南大居10号線内の橋梁として、吊り橋部分を『築紫橋第1』、吊り橋でない部分を『築紫橋第2』という名称で管理しております」とのこと。
写真の黄色いライン部分が「築紫橋第1」、赤いライン部分が「築紫橋第2」だそうだ。
じつはこの筑紫橋は、2011年に落橋したことがある。
2011年8月25日に発生した台風12号は、日本列島を西から東へ縦断。この影響で紀伊半島では、8月30日から9月4日にかけて最大で2000ミリ以上の雨が降った。山間部では土砂崩れが頻発し、河川は氾濫。太田川にかかる筑紫橋は落橋してしまったのである。
「0.1t」の規制標識はそれ以前から設置されており、2014年に架け替えられたときも、重量制限は0.1tとされたという。なお、橋の架け替えの際は、橋床部を吊るワイヤーを支える主塔は無事だったため、昔のものがそのまま利用されている。
ところで、「0.1t」という重量制限自体、一般的な橋では見かけたことがない。橋の耐荷重は、通行する車輌の総重量や走行頻度などの要素で決められる。0.1tに制限しているのは、専ら人の通行のみを想定していると思われるが、「0.1t」すなわち体重100キロ超の人間は、この橋を渡れないのだろうか。敢えて尋ねてみた。
「道路法第47条を見る限り、重量制限標識の対象は『車輌』と規定されています。重量制限は車輌に対するものであり、徒歩で渡る場合に対する制限ではありません」
なるほど、徒歩で渡る人に関しては、そもそも標識に記載されている制限の対象にはならないとのこと。
ちなみに、車輌の重量は「車輌本体の重量」+「乗っている人の重さ」、すなわち総重量を指すそうだ。自転車やリヤカーは車輌(軽車輌)とされているため、そういったものに乗りながら渡る際には、標識上は制限対象になってしまう。その場合、やはり体重100キロ超の人間は、この橋を渡れないのだろうか。
「橋を架け替えるにあたって、耐荷重を0.1tとして設計を行っておりますが、実際には数値上の余裕が設けられておりますので、この耐荷重について0.1tを超過するものが載った場合、即座に落橋する数値ではございません」
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なお、橋の保守点検については「吊足場等の作業足場設置による点検ができないことから、高所ロープ作業での橋梁点検を実施しております」とのことだった。
この筑紫橋を見るために訪れる観光客の有無は不明だが、役場では「周辺は田園風景の広がるのどかな土地であり、ツーリング等で訪れる方も多いかと存じます」とのこと。訪れる際には「築紫橋は地域の方の生活道であるという点を鑑み、重量制限を守ったうえで、大切にご利用くださいますようお願いします」と、注意を呼び掛けている。