ポイ捨てなくすために歌う謎のシンガー、永遠の53歳 「ごみ拾えや」と憤る思いを曲に「偽善と言われてもごみがあれば拾う」

京都新聞社 京都新聞社

 町をきれいにという願いを歌に込めるシンガー・五美(ごみ)ひろえさんが、京都府南丹市を拠点に活躍の場を広げている。ごみが目に付く街角に胸を痛めつつ、「捨てないで あなたの心~」と歌い上げる。ポイ捨てのない丹波を目指す五美さんのステージを取材した。

 6月上旬に南丹市園部町で行われたコンサート。黒いドレスに身を包んだ五美さんが、からんと空き缶の耳飾りの音を立てて現れると、詰めかけた200人が沸く。「永遠の53歳、五美ひろえです~。おおきに~、とんと~ん」。とんと~んには「トントン拍子で明るく行こう」という意味がこもる。

 吉本総合芸能学院(NSC)の14期生として鍛えられた軽妙なトークから、知る人ぞ知るデビュー曲「捨てないで~綺麗(きれい)な町を観(み)たいから~」へ。大人の恋愛と、ポイ捨て防止の啓発という二つの意味を重ねた詞を、歌謡曲調のメロディーに乗せ、本格派の歌唱力で聞かせた。

 歌うきっかけは2018年夏。同市美山町の自然にあふれた場所で過ごしていたところ、近くにいた男性らがタバコを捨てた。「ごみ拾えや」と内心憤りつつ、「きれいな場所なのに、なんで捨てはるんですか」とやんわり注意すると、申し訳なさそうに拾ったという。「『ポイ捨てしないでね』と、うまく人に届けられたら」と、19年秋から歌に思いを託すようになった。

 丹波地域や大阪府高槻市などで年50回前後のステージに立つ。ある時、歌っている最中に、ごみを掲げて「拾ったよ~」とアピールする人を会場後方に見つけた。「前はポイ捨てをしていたけれど、携帯灰皿を持つようになった」というメッセージが自身のSNSに届くこともある。ワンピースをプレゼントしてくれるファンもいる。「ごみにならず、リユースされている。うれしい」と笑顔を見せる。思いは少しずつ浸透しているようだ。

 丹波地域には、南丹市と京丹波町をつなぐ観音峠など、ポイ捨てがひどい場所が少なくない。6月に観音峠に足を運ぶと、吸い殻や空き缶だけでなく、大物のいすまで投棄されていた。コンサート終了後やプライベートでもごみを拾う五美さんは「偽善と言われても関係ない。私は捨てないし、捨てられていれば拾う」ときっぱり。明るいキャラの奥に芯を感じさせる。

 ほかにも「特殊詐欺撲滅音頭」などのレパートリーがあり、新曲「恋の悪寒」も発表した五美さん。ちまたでは、船井郡衛生管理組合の森田愛三さん(48)=園部町=ではないかとささやかれる。大型車を駆ってビン収集に汗を流す森田さんを直撃すると、「そこはノーコメントです~。おおきに~、とんと~ん」。フレーズが酷似しているが、真相は謎のままだ。

 五美さんは言う。「人の笑顔が好き。地域に恩返しができるくらい、人を呼べるエンターテイナーになり、ポイ捨てを減らしたい」

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