高潮とは 過去の被害事例 高波・津波との違いは?

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台風や発達した低気圧が接近すると「高潮」が発生することがあります。大規模な高潮が発生すれば、海水が堤防をこえて背後地が浸水し、甚大な被害が発生する恐れも。高潮とはどんな仕組みで発生するのか。過去に受けた被害や避難のポイントをまとめました。


「高潮」とは?

台風や発達した低気圧が接近すると「高潮」が発生することがあります。
高潮とは海岸で海面水位(潮位)が異常に高くなる現象です。波の一種ではありますが、周期が数時間と非常に長いため、波というより海の水位全体が上昇する現象です。
高潮の発生には「吸い上げ効果」と「吹き寄せ効果」があります。

まず、吸い上げ効果について説明します。台風の接近に伴って、気圧が大きく低下すると1ヘクトパスカルあたり海面を1センチ吸い上げる力が働きます。これを吸い上げ効果と呼び、水位が上昇します。

また、吹き寄せ効果は、台風などに伴って強風が海側から陸地に吹いたとき、海水が海岸に吹き寄せられて海面水位が上昇します。これを吹き寄せ効果と言います。この効果は、風速が2倍になると4倍の海面上昇をもたらします。また、遠浅の海や湾の地形によっては、さらに海面水位が高くなる場合があります。

高潮が発生すると、海面が高くなることで、海水が堤防を越えたり、台風などによって発生した高波も堤防を越波したりすることがあります。住宅などが浸水するリスクが高くなるため、非常に危険です。


「高潮」による被害が顕著だった災害

高潮の被害が大きかったことで有名なものに、昭和34年(1959年)9月下旬に東海地方を直撃した「伊勢湾台風」があります。

昭和34年台風15号は、中心気圧がたった1日で91ヘクトパスカルも下がるなど猛烈に発達し、巨大な暴風域を伴いました。 9月26日午後6時ごろ、929ヘクトパスカルという記録的な勢力で、広い暴風域を維持したまま和歌山県潮岬の西に上陸しました。上陸後は6時間余りで本州を縦断し、北陸や東北の日本海沿岸を北上し、東北北部を通って太平洋側に進みました。
伊勢湾周辺の地域、紀伊半島や伊勢湾沿岸に位置する愛知県、三重県を中心に大きな被害を受け、中でも湾奥部にあたる名古屋市を中心とした海抜の低い土地を中心に死者、行方不明者が5千人を超える甚大な被害が発生しました。
台風の襲来によって伊勢湾全体の海面を1時間近くにわたって2メートル程度も上昇させる大規模な高潮が発生しました。堤防が無ければ満潮時には水没してしまう「海抜ゼロメートル地帯」であったことから、排水完了までに3か月後の12月下旬まで要し、犠牲者の80%以上が高潮の発生によるものとなりました。
この甚大な被害をもたらした伊勢湾台風の後、高潮対策が大きく進展し、「災害対策基本法」制定の契機となるなど、我が国の防災対策の原点が見直されることとなりました。

また、近年では平成16年8月30日に鹿児島県に上陸し、九州を北上した台風16号によって、香川県高松市で高潮が発生しました。台風の接近と大潮期間の満潮が重なったため、高松港や宇野港などで観測開始以来、最も高い潮位を観測しました。特に、高松市では浸水深さは1メートルにも達し、大規模な浸水被害が発生したことで、死者も出ています。

過去に台風によって顕著な高潮が発生した地域は、伊勢湾、大阪湾、 東京湾、瀬戸内海、有明海等、南に開いた遠浅な湾が多くなっています。


「高波」や「津波」との違いは?

「高潮」や「高波」、「津波」はいずれも波や海水面が高くなるものですが、発生の仕方や影響力など大きな違いがあります。
まず高波は、強風が吹く場合や日本近海に台風が発生した際に、強い風によって海面が大きく振動することで起こる波です。その領域で吹いている風によって発生した波を「風浪」、風浪が遠くに伝播した波を「うねり」と言います。うねりの代表例に「土用波」がありますが、これは数千キロメートル南方の台風周辺で発生した波が日本の沿岸まで伝わってきたものです。ほとんどの場合、海の波は風浪とうねりが混在しており、それらをまとめて「波浪」と呼んでいます。

次に「津波」は、地震の発生によっておこります。
地震が発生すると震源の近くでは地面が持ち上げられたり、押し下げられたりを繰り返します。地震が海域で発生し、震源が海底下の浅いところにあると、海底面の上下の変化が、海底から海面までの海水全体を動かすことになり、この海水の変化が周りに波として広がっていく現象を津波といいます。

津波はジェット機並みのスピードで沿岸部に近づき、大きな破壊力を持ちます。たった30センチの津波でも足下がすくわれて、命に関わる危険があるため、非常に恐ろしいものです。怖さを知り、いちもくさんに高台に逃げることを常に頭に置くようにしてください。


「高潮」の発生しやすい場所 避難のポイント

高潮が発生しやすい場所は「南向きに開いた湾」で、湾の「河口部」「湾の奥まった場所」「V字谷」が危険な場所です。中でも被害が大きくなるのは、海抜ゼロメートル地帯と呼ばれる「海岸付近の低い土地」です。

また、台風による強風が海側から吹きつける地域では、海水が吹き寄せられるため潮位が高くなります。
一般的に、北半球では「台風の進路の東側」が進路の西側より海面水位が上昇するといわれています。台風の進路次第で風向きが大きく変わりますので、進路にも注意が必要です。

沿岸部の中でも特に高潮の発生しやすい場所があるため、「高潮ハザードマップ」を確認しておきましょう。万が一、高潮による浸水被害が発生した場合に、どのような状況が予想されるか把握することができます。自分が住んでいる場所の危険度を調べておきましょう。

なお、高潮発生のリスクの高い場所にお住まいの方は、屋内で待避していても命に危険が及びますので、立退き避難が必要となります。
台風や低気圧等の接近が予想されているときには、高潮注意報や警報が発表されたら予想最高潮位(高潮の高さ)をもとに命を守るために立退き避難が必要かどうかをご確認ください。

また、台風などの接近時には、潮位の上昇よりも先に暴風が吹き始め、屋外への立ち退き避難が困難となることもあります。このため、高潮警報に切り替える可能性が高い高潮注意報は、暴風が吹き始めて屋外への立退き避難が困難となるタイミングを考慮し、暴風警報が発表されている場合は高潮警報として発表します。暴風が吹き始める段階までには、高潮警報・注意報の予想最高潮位(高潮の高さ)に応じた浸水想定区域の外の安全な場所への避難を完了することが重要です。
また、重大な災害の起こるおそれが著しく大きい場合には「高潮特別警報」が発表されます。この時点では安全な場所に身を確保し、命を守る行動が最優先となります。高潮の危険区域では、自宅に身を置くことも危険となるため、高潮注意報、警報の段階で早めの避難行動が欠かせません。

夏から秋にかけては、日本各地の潮位は一年のうちで最も高くなります。この時期の大潮(新月や満月の前後)の満潮時の潮位は、ほとんどの所で年間の最高潮位となります。台風が襲来しやすい時期と重なるため一層の注意が必要です。

参考資料:国土交通省「高潮防災のために」
内閣府 防災情報のページ 報告書(1959 伊勢湾台風)

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