「また一つ国鉄型が消えるのか」新快速として生まれた名車・国鉄117系、全国唯一の定期運行が終了へ 21日ラストラン

山陽新聞社 山陽新聞社

 関西、東海地区、そしてJR山陽線など岡山エリアで活躍した国鉄型電車が21日、現役を退く。「快速サンライナー」としてなじみ深い人も多い117系のことだ。元は新快速のため生まれた名車だが、今では岡山でしか走ってないため、ファンからは惜しむ声も聞かれる。定期運行終了を前に、約30年間岡山の鉄路を走り抜けた電車の歴史を振り返った。

 うなるようなモーター音が次第に大きくなる。4両編成の電車が近づいてきた。角を丸めた独特な流線形の先頭車両、左右2個ずつ配置されたライト、ヘッドマークのような逆台形の表示幕。117系の"顔”は他の電車とは一味違う。鉄道ファンならずとも一目を置く存在だ。

「高揚感ある電車」

 1979年、私鉄とのサービス競争が激しかった関西地区の新快速車両として誕生した。特急列車のようなスタイリッシュな外観に、進行方向に座席の向きを変えられる転換クロスシートを採用。従来より足元が広くなるなど快適性が向上し、高い評価を受けた。その後、東海地方にも投入された。

 岡山にお目見えしたのは、92年3月のことだ。岡山ー福山間を走る「快速サンライナー」の新型車両として迎えられた。岡山独自の塗装が施され、白色を基調にした車両には、瀬戸内の太陽とミカンをイメージした赤とオレンジのラインが入れられた。

 「これまでの列車にはない高揚感があった」。山陽新聞デジタル(愛称・さんデジ)でコラム「岡山鉄道雑記」を執筆する就実大特任教授の小西伸彦さん(64)は振り返る。お気に入りは、車両のフロント部分だ。中央には太陽と波をイメージした「快速サンライナー」のロゴマークが輝き、ライトの間には「SUN LINER―SETOUCHI SEA SIDE RAPID SERVICE Feel The Sunshine & The Sea Breeze」と濃い緑で書かれていた。

 小西さんは「福山駅でサンライナーが待っていてくれたり、入線したりするとついうれしくなって、ジュースを買って乗り込んでいた。観光列車ではないが、旅に出た気持ちになった」と笑みをこぼす。「車内は木目調の壁や茶色の座席など落ち着いた雰囲気だった。老朽化が進んだとはいえ、今もその魅力は色あせない」と引退を惜しむ。

ラッピング電車でも存在感

 しゃれたデザインで人気を集めた117系だったが、2010年から16年にかけて、現在の黄色一色になった。しかし、ラッピング電車として違う姿を2度見せ、存在感を示したことがある。

 16年2月に登場したのは、マスキングテープを貼り付けたようなデザインの「mt×SUN LINER」。大型観光企画「晴れの国おかやまデスティネーションキャンペーン」に合わせた企画で、車体や車内がカラフルな水玉や縦じま模様で彩られた。同年10月からは、サッカーJ2ファジアーノ岡山のエンブレムやマスコットキャラクター「ファジ丸」などがあしらわれた応援電車として、山陽線と赤穂線を走った。

 JR西日本によると、岡山ではピーク時、6編成24両が在籍していたが、現在は3編成12両のみ。老朽化に加え、1両当たり扉が2カ所しかなく、ラッシュ時に乗り降りしづらいこともあって置き換えが進んでいた。22年3月の快速サンライナー廃止後は、普通列車として運行。今春、京都エリアでも姿を消し、全国唯一の定期運用となっていたが、今夏、新型車両「227系(愛称・Urara)」にバトンを渡すことになった。現在の117系の黄色やサンライナーで使われたオレンジ色が、Uraraの車体側面を彩る帯として引き継がれている。

 新型車両導入と117系引退は今年5月末、同時に発表された。SNS上には「また一つ国鉄型が消えるのか」「長年の活躍と偉大な足跡に敬意を表したい」など驚きや労をねぎらう投稿が相次いだ。

岡山と「銀河」の縁

 しかし、全ての117系が消えるわけではない。西日本の海や空をイメージした瑠璃紺(るりこん)色が目を引く長距離観光列車「ウエストエクスプレス銀河」(20年デビュー)が歴史を引き継いでいる。車両デザインを担当した川西康之さんに取材を申し込むと、岡山と「銀河」の裏話を教えてくれた。

 川西さんに与えられた条件は「『銀河』は117系を改造すること」。車両の視察で訪れたのが、岡山電車区(現下関総合車両所岡山電車支所、岡山市北区野田)だった。「その時は初期ロットと86年製の最終ロットの両方があった。いろいろと検討した中で、個室スペースが取りやすい初期ロットを選んだ」と明かす。

 もう一つJR西日本から注文があった。「岡山駅で山陽線の快速117系と並んだとき、『銀河』がはっきり差別化して見えるように」というものだ。流線形を残した上で、地域ごとに塗り分けした伝統を受け継ぐことにした。岡山駅の2番ホームでスケッチを描き、駅前のホテルで仕上げた後、改造を手掛けるJR西日本の吹田総合車両所に図面を送った。岡山での体験が、117系の進化形である「銀河」誕生の裏側にあったわけだ。

 建築家でもある川西さんは「鉄道車両も建築も、古い価値と新しい価値を組み合わせることが大事。倉敷や高梁の町並みと同じように、夢が持てる進化をしないといけない」と強調し、「ウエストエクスプレス銀河は117系のシンボルとして存在し続けてほしい」とエールを送っている。

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