急逝したジャズ・トランペッターの想いが形に 保護犬・保護猫のために奏でられる「命をつなぐジャズコンサート」

岡部 充代 岡部 充代

 7月2日、「滋賀県動物保護管理センター」(滋賀県湖南市)でジャズのコンサートが開催されました。題して『命をつなぐジャズコンサート』。2014年に第1回が開催され、今年でちょうど10年目。実行委員長を務める浜田才知子さんにお話をうかがいました。

「センターとのお付き合いは35年くらいになります。当時はたくさんの野犬が捕獲され、飼い主の持ち込みも多くて、尊い命が次々と奪われていました。主人(故・博行氏)と見学に行かせてもらうと、収容施設にぎっしりわんちゃんがいて……涙が止まりませんでした。でも、主人に言われたんです、『泣いていても何も始まらないよ』って」

 センターでは、飼い犬を持ち込んできた人とも遭遇しました。『新しいわんちゃん買ってきたから、この子もういらん」と言って、抵抗する雑種の子を引きずってきた女性。5歳くらいの男の子も一緒だったと言います。職員に「ここに置いて帰ったらどうなるか分かっていますか」と尋ねられても、そのまま……。当時は“譲渡”のシステムが確立されておらず、入ったら最後、二度と出られない場所だったのに。

「このままではいけない」と考えた浜田夫妻は、檻にかかった野犬がいると聞き、引き取りを申し出ました。「3カ月間でちゃんと家庭犬になったら、譲渡について考えてほしい」と。当時、浜田家には捨て犬ばかり6匹いて、ロイくんと名付けられたその子が7匹目だったそうです。

 ロイくんは約1カ月、浜田家で過ごしたのち、ご近所の犬好きさんの“家族”となりました。3カ月にわたってレポートを書きセンターに提出したことが、譲渡へ向けて動きだす一つのきっかけになったことは間違いありません。

コンサート実現まで10年

 その後、プロのジャズ・トランぺッターだった博行さんは、「音楽を通じて何かできないか」とチャリティコンサートを企画。センターの存在と譲渡への取り組み、そこに収容されている犬や猫の現状を知ってもらい、命について考えてもらうきっかけになれば、という想いからです。

 バンドメンバーや音楽関係者に声を掛けると、多くの仲間が趣旨に賛同し、無償での参加を快諾してくれました。ただ、センターでのコンサート開催など初めてのこと。実現までには10年の歳月を要しました。

「この場所での開催にこだわりました。来て、見て、知っていただくことが大事だと思ったので」(才知子さん)

 

 第1回のコンサートが開催されたのは2014年7月。そのときのチラシには1匹の犬の写真が掲載されています。前年、センターから浜田家に来たジジくんです。「コンサートのシンボリックな存在に」と当日も会場に一緒に行き、受付にいると、「あの写真の子が欲しい」と希望する人がたくさんいたそうです。

「センターにいたら、すでに老犬だったジジに声は掛からなかったかもしれません。でも何か行動に移すことで、そんなふうに思ってくださる方がいる。それを実感できたうれしい出来事でした」(才知子さん)

 翌2015年、第2回のチラシにもジジくんの写真が載っていましたが、コンサートから1カ月もたたないうちに、16歳で天国へと旅立ってしまいました。そして、その数カ月後に博行さんも51歳の若さで急逝。

「3時間前まで電話で話していたんです。本当に急で、ショックが大きくて……。コンサートの継続も迷いましたが、『仕事と関係なくずっと続けたいね』と主人と話していたので、遺志を継がなければと思い、今までやってきました」(才知子さん)

 

 センターへの子犬持ち込みがゼロに

 節目となる10年目。第1回から参加しているヴォーカルの浦千鶴子さんにも、動物たちへの深い愛が感じられました。

「子どもの頃から動物に癒されてきたので、命の売り買いがされていることに疑問があり、センターのことをもっと知ってほしいという想いで参加させていただいています。そして、今現在ここにいる子たち、ここで一生を終えて眠っている子たちにも音楽を届けたいなと。歌っていると、鳥が一緒に鳴いてくれるんですよ! 動物たちにもきっと届いていると思います」

 コンサートはセンターの認知度アップに大きく貢献し、この10年で犬猫の収容数は約3分の1(1495→575)、殺処分数は4分の1以下(1112→271)に減少しました。佐野哲也所長はその意義について、こう話します。

「コンサートをきっかけにセンターにいた犬や猫を引き取ってくださった方もたくさんいますし、昨年は飼い主に持ち込まれた子犬が初めてゼロだったんです。平成5年には犬の収容数が年間6000頭近くいて、そのうち4000頭が子犬だったことを思えば、画期的ですよね。コンサートを通じてセンターを知っていただけただけでなく、命に対する意識も変わってきているのではないでしょうか」

 才知子さんは30年以上前にセンターで見た、動物たちの悲しそうな目が忘れられません。だから毎年、コンサート当日に慰霊碑に手を合わせ、こう語りかけるのです。

「人間の身勝手で人知れず葬られたあなたたちの無念は忘れません。苦しむ子たちがいなくなるよう、尊い命がつながるよう、そしてセンターの歴史が語り継がれるよう、これからも頑張っていきます」

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