虐待そして飼育放棄された保護犬 歯をむいて飛びかかるそぶりも 心の氷を溶かすためスタッフが始めたこと

松田 義人 松田 義人

2021年、広島の動物愛護センターに雪のように真っ白な毛並みのワンコが収容されました。名前はすず。メスの元飼い犬なので、本来なら人馴れしていてもおかしくないのですが、過剰に威嚇し、ときに歯を剥いて飛びかかってくるようなそぶりを見せることもありました。

人間に対して不信感しかないようにも映る威嚇ぶり

動物愛護センターの職員によれば、飼い主からひどい虐待を受けた末、飼育放棄された可能性があるそうです。心に深い傷を負い、人間に対して不信感しか持っていないようにも映りました。

そんな様子を見た保護団体・ピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)のスタッフは、すずを引き出すことを決意。もう一度人間に信頼を寄せてくれるようサポートをすることにしました。

根気強く接するスタッフ

すずを引き出し、ピースワンコの施設へと連れ帰ってからも、すずの態度は動物愛護センターで見たときと全く変わりません。人間が近づいただけで慌て驚きケージの中で萎縮してしまいます。人間を警戒するようにジッと見つめ、自ら近寄るようなことはしません。スタッフがすずがいる部屋に入ると、おびえて逃げ回り、さらに近づこうとすれば、吠えたり噛みつこうとしたりと、攻撃的な態度を見せます。

前述の話が事実ならば、人間に対して不信感と怒りを抱いているようにも映るすずですが、スタッフは諦めることなく慎重に接するように心がけました。

すずと同じ部屋で1時間ほど何もせずに過ごし、少しでも警戒を解いてもらえるようにしました。すずの表情が少し柔らかくなっていれば、体にそっと触れてみることもありました。ここですずが過度に嫌がったり、警戒するようであれば、この日のトレーニングはここで終了。また翌日から同じようなトレーニングをやり直しました。

「もっとなでて」と甘えてくるように

根気強いトレーニングを続けること数週間。すずは触られることに馴れていきました。緊張して固まったり、唸ることもありますが、引き出した当初のような激しい威嚇はかなり減りました。時間はかかっていますが、これがすずのペースです。少しずつでも心を開いてくれるようになったことを喜ぶスタッフでした。

やがてすずは、スタッフから体をなでられるのを好むようになり、なでる行為を途中でやめると、「どうしてやめるの?」「もっとなでてよ」と言わんばかりに、スタッフの顔を見つめ甘えるようになりました。このときスタッフは、「もう一度人間を信頼してくれた」とすずに感謝しました。

尻尾を振りながら寄ってくるようになった

やがてすずは抱っこもさせてくれるようになり、もちろん散歩や遊びも好むようになりました。ずっと一緒にいたスタッフがそばにいると、尻尾を振って寄ってくるようにもなりました。保護当初の、人間におびえ警戒し威嚇していたすずの姿は、もうそこにはありませんでした。

現在すずは、ピースワンコのシェルターで暮らしながら、新しい家族とめぐり合えるのを心待ちにしています。左目が緑内障になった影響で失明してしまいましたが、それ以外はいたって健康で、元気に過ごしています。

これまでとても辛い思いをしてきた分、これからたくさんの幸せをつかんでほしいとスタッフは願います。近い将来、すずに新しい家族が現れ、多くの愛情を受けて第2の犬生を過ごしていけることを祈るばかりです。

ピースワンコ・ジャパン
https://peace-wanko.jp/

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