東京神田「季っ酔」で夏酒あれこれを。岡山「解放区」との橋渡しも成立~鉄爺のおいしんぼ#7

沼田 伸彦 沼田 伸彦

 3月初めだったか、このブログで長いサラリーマン生活最後となった東京出張への感慨を書いた。先日、会社での肩書も完全に外れた身となって初めて東京を訪ねた。ただこれまでと足を向ける場所が変わるわけではない。所用が済めば、おいしい酒、グルメを求めてあちらへ、こちらへ。以前にも紹介したことのある神田「季っ酔」は外せない店のひとつだ。

 4卓16席の店のすべてを日本酒好きの若いご主人ひとりで賄う。したがって料理は基本品のコースのみ。これに飲み放題が組み合わさる。素晴らしいのは、その日の料理ごとに最適な日本酒をご主人が選び、席までやって来て丁寧に蘊蓄を聞かせてくれること。自ら酒蔵を訪ねて仕入れてきたものも多く、この日は蔵出しが始まったばかりの夏酒がそろっていた。

 種類を飲みたいので、1銘柄は3~4勺で、と頼むのが自分の定番。この日は北から順に「名倉山」(福島)、「鳳凰美田」(栃木)、「聖」(群馬)、「木曽路」(長野)、「金陵」(香川)、「庭のうぐいす」(福岡)と6銘柄の出来立てほやほやを存分に楽しんだ。

 他のテーブルの客が店を出て、忙しさが一段落した時点で、ご主人がテーブルのそばにやって来て、うれしそうに「今度、初めて岡山に行くんですよ。どの酒蔵かはまだ決めてないんです」という。それを聞いて黙っていられなくなった。

 「え、岡山?これまでそんな話したことなかったけど、僕、岡山の出身だよ」と打ち明けると、今度はあちらがビックリ。

 「えーっ!!夜どこで飲もうか、家内と探していたところなんです。どこかいいところありますか」

 「じゃあいいお店を紹介してあげる」と胸をたたいてスマホを取り出し、このブログでも何度か紹介した岡山市内の「日本酒バル解放区」の番号を押した。実は「解放区」の若い夫婦には「東京に行くことがあれば是非」とこの「季っ酔」のことは紹介したことがある。電話に出た女将に「いま季っ酔にいるんだけど」というとこちらも「えーっ!!」。

 早速、季っ酔の主人夫婦が出かける7月下旬の日にちを伝え、席を予約した。「とてもお酒好きの、ちょうどそちらのご夫婦と同じ年配のご主人だから、間違いなくお酒の話で盛り上がるよ」。

電話を切って、季っ酔のご主人の方には「あちらも大喜び。ご主人の知り合いの酒蔵が岡山のあちこちにあるから、きっといいところを紹介してもらえるはず」と伝えた。そんな話をしているとそこに自分が同席できないのが残念で仕方がない。

 どちらのお店も日本酒に関する熱心さにおいてはなかなかのもの。忙しい店の仕事の合間を縫うようにしてあちこちの酒蔵を訪ね、自らの舌を頼りに常時数十種類の品揃えにこだわっている。しかも季節に合わせてそれを頻繁に入れ替える手間の掛け方にも感心する。もちろん自ら工夫を凝らした料理メニュー、リーズナブルな料金、お店は小さいながらしっかり根付いた常連客が多いというのも両者の共通点だ。

 こうしてまったく何気ない会話から、このところ自分が一、二の贔屓にしている小さな日本酒のお店がつながることになった。東京神田と岡山。これをきっかけにふたつのお店を訪ねる自分自身の楽しみもさらに膨らむ。肩書抜きとなって初めて訪ねた東京から、次回も早いうちに、そう誘われているような気になった。

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