「キャンセル料のご連絡をすると請求された事に“残念です”と仰る方が一定数いる。予約は契約であって仮押さえでも何でもないのです。コチラはキャンセルポリシー通りに請求するしユーザーも払う義務があります。キャンセル料なんとかなりませんか?という文化はそろそろ終わりにしましょう」
宿泊のキャンセル料について一石を投じたつぶやき。旅館関係者・飲食業者、また旅館やホテルを利用する人々などがさまざまな声を寄せています。投稿した静岡県・伊豆長岡の温泉旅館「富嶽はなぶさ」の3代目花房光宏さんに詳しい話を伺いました。
キャンセルされる側の思いを知ってほしい
宿泊のキャンセルについて、以前から違和感を感じていたという花房さん。
その思いを投稿すると、「昔、旅館の厨房で働いていたとき、食材調達後にドタキャンされたので板長が酷く怒ってました。仕入れにもお金はかかるので取るのは当然です」「お部屋もお食事も用意している。キャンセルする側はごめんなさいの気持ちで払うのは当たり前だと思います」「うちのお店でも予約時間に来ないので電話すると… 『あ、キャンセルでお願いします』。自分勝手な人が増えてる気がします」「パーソナルジムや完全予約制のピラティススタジオのキャンセルも全く同じ感じ」などのリプライがありました。
また、「予約するなら料金の一部を先に払っとく(キャンセルしたらその分は返さない)とかが丁度いいのかな」と前払いを推奨する声もありつつ、「前払いにしても、そういう人達は“泊まって無いから返して”と言いそう」とトラブルを懸念する声も。
わずかですが、「キャンセル料をまともに取るホテルを、また利用しようとはならない」との利用者目線のコメントもありました。
ツイートの反響について、花房さんは全く予想していなかったそうですが、宿泊業以外、例えば、飲食店やヘアサロン、個人のトレーニングスタジオなどでも同様のケースが多いことも今回の件で認識したとのこと。「多くの方にとって、関心のある話題だという事は理解しました。宿泊業界関係者に限らず、同調の意見が多く、今後、キャンセル料のあり方について、皆さまが課題点を感じ変化を起こしてくれたらなと思うと同時に、変化を起こしていきたいなとも思いました」。
宿泊予約=契約という意識が希薄
宿泊キャンセル料は、旅館やホテルが各自ルールを決めており、ホームページや宿泊案内のパンフレットなどにキャンセルポリシーとして提示されています。
しかし、宿泊者側の都合でキャンセルになった場合、キャンセル料を払うことを拒否するケースも。「キャンセル料のトラブルは頻発している訳ではなく、総数としては少ないです。ただ、キャンセル料の支払いはほとんど無視されます。こちらから、改めて、ご連絡すると、お支払いいただけるケースが多いのですが、中には“泊まっていないのだから、払わない”とごねたりする場合もあります。踏み倒しは2割くらいでしょうか」と実情を明かします。
「泊まっていないのだから、キャンセル料が発生する理由がわからない」と主張されることが多いそうですが、「宿泊予約は契約です。破棄したら、ペナルティーとの認識が薄く、キャンセル料をお伝えすると“残念です”と言われてしまうのです。しかし、キャンセル料がちゃんと必要な理由があるのです」と花房さん。以下の内容をその理由として挙げています。
◎食材や人材の手配
予約を受けると、当日のお食事の食材調達や調理スタッフ、客室スタッフなどを手配します。しかし、キャンセルになった場合、食材が無駄になります。また、スタッフに払う人件費も余分に払うことになります。それらをキャンセル料で補填します。
◎予約機会の損失
予約が入るとお部屋を確保します。予約でお部屋が埋まっている場合、他の方からの予約があっても予約を受けることが不可能で、予約を受けるチャンスを逃すことになります。もし、予約キャンセルになっても、キャンセル料金で予約機会の損失を補えます。
◎リスクヘッジ
複数のホテルを同タイミングに予約する人など、予約の仮押さえなどによるリスクをキャンセル料金の設定で減らします。
業界全体で意識を変えていく必要も
これまで、業界もそれに目をつぶっていた面もあることは否めません。
「旅館業界は昭和のやり方が今もなお続いている古い業界です。例えば、当館も2年ほど前まで紙の予約台帳で予約管理していました。FAXで予約を受けたり、各ポジションのホワイトボードをそれぞれ書いたり…他の業界の方からすると信じられない様なオペレーションを続けていたのです。話題になったキャンセル料についても、昔ながらの風習が残っているのが大きいと私は考えています。直前キャンセルはそのまま損失となってしまうのですが、キャンセル料の請求を積極的に行わないと言う慣習があるのです。“キャンセル料は結構です”というものですね」。
実際、予約客にキャンセル料を伝えた際に、「他の宿では、請求されなかったよ」と、言われたこともあるとのことでした。
「体調不良や突発的な事情などがお客さまにあることもわかります」と理解を示した上で花房さんは言います。「でも、だからと言って、宿側がこらえるだけでは、旅館を守ること、スタッフを守ること、業界を守ることにはならないんじゃないでしょうか? それは結局、価格が上がり、サービスや質が下がることにつながっていきます。最終的にはお客さまにとっても良くないのではないかと思います」。
ネットで予約が簡単に取れるようになりましたが、「キャンセル料についての意識がますます希薄になっているのは明らかです。予約をするスマホや電話の先に、フロントスタッフやお部屋のスタッフ、厨房のスタッフなどがいて、お迎えの準備をしていることを忘れないで欲しいです」と訴えます。
◇ ◇
今年は、多くの人が夏休みの旅行に出ることが予測されます。予約の際には、キャンセルポリシーに目を通し、キャンセル料が発生することを認識した上でご予約を。突然のキャンセルは先方にとっては食材費や人件費を考えると、ゼロではなくマイナスになること。予約は契約であることを忘れないでください。
■伊豆長岡温泉 富嶽はなぶさ TEL 055-948-1230
http://www.yadohanabusa.com/
■Instagram @fugaku_hanabusa
■「はな」富嶽はなぶさ/伊豆長岡温泉 三代目 花房光宏さんTwitter @hanabusamitsu