南大阪線の始発駅、大阪阿部野橋駅のホームに立つと古市駅から長野線へ入る河内長野行き準急をよく見かけます。終着駅の河内長野駅は大阪府河内長野市の玄関口であり、南海高野線も乗り入れます。しかし、大阪市内から河内長野駅へは南海の方が圧倒的に便利です。なぜ、南海に“ボロ負け”状態なのに、近鉄は河内長野行き準急を運行するのでしょうか。
大阪市内から河内長野駅へは南海が便利
大阪市内から河内長野駅へのアクセスを見ていくわけですが、まずは近鉄から。近鉄南大阪線の始発駅、大阪阿部野橋駅から河内長野駅へは昼間時間帯の準急で約40分。運賃は680円です。
ラッシュ時を中心に途中の古市駅で連結・切り離しが行われ、同駅で4分ほど停車することもしばしば。また長野線富田林~河内長野間は単線です。
一方、南海の場合、河内長野駅は全種別が停車する高野線の主要駅です。高野線は大阪・ミナミの中心地である難波駅を起点とし、難波~河内長野間の昼間時間帯の所要時間は急行で約30分。運賃は570円です。
実は昼間時間帯ですと、大阪阿部野橋駅近くにある天王寺〜河内長野間(JR・南海経由)は大阪阿部野橋〜河内長野間よりも速く、しかも安いのです。ただし、南海は10月に運賃改定を実施する予定です。
このように、大阪市内から河内長野駅までの利便性を比較すると南海に軍配が上がります。
それにもかかわらず、昼間時間帯のダイヤを見ると、大阪阿部野橋駅から河内長野行き準急は1時間あたり4本もあります。古市駅を経て南大阪線橿原神宮前駅へ向かう区間急行よりも本数が多いのです。一体、河内長野行きの準急にどのような需要があるのでしょうか。
富田林市内を突っ切る近鉄長野線
先ほどの問いに答えるヒントとして、1日あたりの駅別乗降人員(2022年)が挙げられます。それによると長野線で古市駅に次いで最も乗降人員が多い駅は喜志駅15049人、次いで富田林駅11142人。その次に多いのが河内長野駅10807人です。一方、南海河内長野駅の1日あたりの乗降人員(2021年度)は21520人となり、近鉄のほぼ倍です。
また、南大阪線古市~橿原神宮前間の中間駅で、1日あたりの乗降人員が1万人を超える駅はありません。大阪阿部野橋駅から長野線直通の列車が多いのも納得がいく話です。
喜志駅、富田林駅ともに大阪府富田林市にあります。富田林市は河内長野市に隣接し、人口は約11万人、面積は39㎢です。市の中心地を走るのは近鉄長野線で、駅からは路線バスが出ています。
つまり、大阪阿部野橋~河内長野間の準急は特に富田林市民にとって欠かせない足なのです。実際に河内長野駅から乗車した際も富田林駅から乗客が増えました。
住宅開発にも触れておきましょう。南海高野線は富田林市の倍以上の面積を持つ河内長野市を南北に突っ切ります。河内長野市にある住宅地・ニュータウンである小山田荘園、南海美加の台、千代田は1960年代から1980年代にかけて南海が手掛けました。
このように河内長野市は南海色が濃い土地といえるでしょう。ちなみに、富田林市にある金剛東ニュータウンは住宅・都市整備公団が手掛けました。
最近の長野線の話題では交通渋滞の解消を目的とした喜志~富田林間下り線約0.9キロの高架化が6月10日に完了しました。一方、同線は全線複線化の予定は存在しません。