プロから見た夏の「家庭の弁当作りでガクブルな点」 老舗弁当店の注意喚起に「勉強になります」「家庭では無理ゲー」…家でできることは?

谷町 邦子 谷町 邦子

暑くなってきた今の季節、「家庭での弁当作りのガクブルな点」を発信した老舗弁当店の注意喚起に大きな反響がありました。プロと家庭ではどのような差があるのでしょうか?

創業170年の弁当店「日本橋弁松総本店」(以下、弁松)の公式ツイッターアカウントでは、衛生面を徹底している立場として弁当に、

・加熱していないものが入っている
・加熱したものを冷まさないで密閉容器に入れる
・素手で詰める
・器具のアルコール消毒をしていない

などの点が「ガクブル」と恐ろしく思えるほど、食中毒の危険性を感じるとのこと。気温が高い真夏だけではなく6月や9月も注意が必要なこと、「黄色ブドウ球菌」など加熱しても毒素が壊れない菌もあることを述べ、「ご家庭でも食中毒菌は『付けない』『増やさない』『やっつける』でバイバイキンして下さい」と注意を呼び掛けます。

「アルコール消毒はしてなかった 気をつけよう」など参考にするといったコメントや、「朝作ってもらった料理を詰めた弁当が昼頃には腐敗臭を醸していた経験、何度もあります」「年中注意しています。食中毒で2回病院のお世話になったので。すべては私の不注意ですが」などの体験談が寄せられていました。

また、「全体に味付けが弱くなった、おかずのバリエーションが増えた、トマトなんかの生野菜・フルーツが付くようになった。も原因だと思われます。しっかり塩の効いた鮭に甘い煮物とお漬物なんかだと比較的傷みにくいイメージですけど」「日本の気候は40年前とは違うのよ。春~秋まで安全なお弁当を家庭で作るのは無理ゲー。夏休み学童の毎日お弁当、安全に作れる気がしない」と、好まれるおかずや味の変化、温暖化による気温の上昇を指摘する人もいました。

弁松の公式アカウントの「中の人」によると、弁当業界を含む食品業界は、定期的に保健所の衛生講習を受けたり、デパートの品質管理部に細菌検査や工場立ち入り検査を受けるそうで、常に衛生について意識させられる状況に。「食中毒のひどいのを出してしまうと一発で会社自体がアウトになってしまうこともあるので特に気をつけてるんです」と強い危機感を抱いています。

プロに家庭での対処法を教えてもらい、どんな食中毒対策をおこなっているのか具体的に聞きました。

素手で調理、熱いまま密閉、炎天下のなか登校……リスクいっぱいのお弁当

――家庭でのお弁当作りの反応について、どのように感じましたか?

「『参考になりました』という反応が多かったのですが、一部に『家庭には弁当屋と同じ設備がない』というコメントもあり、それもごもっともだなと思いました。今回の件で、私の想像以上にお弁当を作っているお母さんたちは悩んでいらっしゃることが伝わってきました。

よく聞く『お弁当をやめて全部給食になればいいのに』という言葉は、大変だからだけではなく食中毒からの防御ができない、菌を付けないようにするのも難しい背景があったのだなと。対策はしても、気温が高ければ登校中に、授業中にでもどんどんと傷んでいってしまう。そんなリスクを負うぐらいなら、給食に…という意見に納得いたしました」

――家庭でできる対策は?

「100%大丈夫と言える対策ではありませんが、少なくとも詰める前に粗熱はとった方がいいと思います。それと、入れるものは全部火を通したものにした方がいいです。見た目が茶色ばっかりになるかもしれませんが、その方が安全ですね。また、実践している方も多いようですが、おにぎりはラップを使って素手で触らないこと。もしくは、100円均一ショップのおにぎり型といったものを使った方がいいと思います」

――ハムなどをそのまま入れている家庭もあるようですが、そういったものにも火を?

「ハムって基本冷蔵保存しないといけないじゃないですか、ハムとかソーセージも1回火を入れた方がいんじゃないかと個人的には思いますね」

――他にはどのような対策ができますか。

「『ご飯を炊くときはうちはお酢を入れている』というコメントがあったように、お酢は確かに効果があるみたいなんですね。殺菌効果、菌の増殖を抑制する効果に期待して、味が変わらない程度に入れるのも一工夫かなと思いました。

また、プラスチックのタッパーに詰めて密閉してしまうよりは、木でできている弁当箱の方がいいと思います。うちはほぼ使い捨ての100%木の弁当箱を使っていますが、一部のスーパーさんに納品する商品はプラスチックと発泡スチロールの容器に入れています。汁漏れはしませんし、ちょっと上げ底になっていたりして詰めやすく、ご飯がへばりつきにくいので食べやすいというメリットも。ただ、気づかれる方は少ないと思うのですが、ご飯がちょっと蒸された感じに。

木のお弁当箱は水分を吸ってくれたり、適度に蒸気を吸い取ってくれて、ほのかに木の香りもつくので、木の方をオススメしたいです。お弁当箱もいろいろ種類があるので、試されてみるのはいかがでしょうか」

――テレビやネットでは、人気のキャラクターをモチーフにした「キャラ弁」や「映え」弁当が取り上げられていますが、食中毒を防ぐという視点から気になることはありますか。

「主婦によるキャラ弁の本を買って読んだことがあり、作品としては本当に芸術作品。毎日子供のために、朝4時に起きて数時間かけて作っているとか、親としてもすごいなって尊敬します。

ただこの業界の人間から見ると、「手袋をしないで何時間も前に作った」のであれば、食べるときに危ないなというのは前から思っていました。素手でいろいろ細かい作業をしているのであれば、自宅で子どもの誕生パーティーで作ってすぐ食べるという場合は問題ないかもしれませんが、弁当の場合は避けた方がいいと思います」

プロとして作る上でお弁当への対策とは?

――お弁当を作るうえで、どのようなリスクを感じていますか。

「極端に言ってしまいますと、食中毒菌が1つ2つ付いても病気になるわけでも死ぬわけでもありません。しかし、ある一定数を超えてしまうと、体の弱い人から食中毒になる危険性が高まります。

販売する弁当の場合は、工場の中とかデパートの売り場では細心の注意を払っていても、持ち帰る間の温度管理、ご家庭で高温多湿な場所に放置されるといった状況、実際に口にするまでが10時間後かもしれないといった保存期間も含めて、こちらではわからないリスクがあるので、できる限りの対策をしております」

――投稿では、食中毒予防の3原則、食中毒菌を「付けない」「増やさない」「やっつける」に触れていましたが、どのように対策していますか。まず付けないためには?

「菌は倍々に増えていくので、弁当の場合はそもそも『菌を付けない』ことが重要。付いていなければ増えません…とは言え、食べ物に菌が全く付いてないことはありえませんので、できうる限り『手を洗う』。出勤した時点やトイレ後に洗ってから、必ずアルコール消毒します。そして、どれだけ手を洗ったり消毒しても、手が荒れていたり、ちょっとした切り傷があったり、どこか体の一部を触ると菌がついてしまいますので、弁当屋の場合は必ず手袋を付けます。素手は絶対にだめです。

調理器具もよく洗って乾かさないと、濡れてる部分に菌が増殖しているかもしれませんので、調理場自体とまな板、包丁から、鍋とか、テーブルとかも、ちゃんとアルコールで殺菌しておきます」

――次に「増やさない」ためには?

「菌の増殖には温度が関係するので、冷凍保存すると菌がついていても増えません。例えば玉子焼でしたら焼きたては手で触るとやけどするぐらいなので、結構な高温です。その後、緩やかに放熱して、菌が増殖しやすい最も危険な温度帯(30度から38度)を通過している間に菌が増えないように、いかに早くそれ以下の温度に冷ますが重要になります。

うちの工場ではすぐに冷風で食品を冷やす冷却機に入れます。玉子焼であれ、魚であれ、危険な温度帯以下にならないと出せない。そして、2度とか3度とか低温になっても、保管場所が常温だったら、徐々に危険な温度に戻ってきてしまうので、食材を保管するときはエアコンを強度にして室内温度を下げたり、冷蔵庫に入れたりといった対応をとっています」

ーーでは「やっつける」ためには?

「調理中に火を通してもともと食材についた菌を殺してしまうこと。でも、黄色ブドウ球菌など1回毒が出てしまえば、いくら熱しても毒自体は残ってしまう場合もあるので、発生した後で殺すのは難しいんじゃないかと。

昔、出血性大腸菌O-157が流行した時に、保健所に教えてもらったのが、『O-157の殺し方』、『157』を逆に読んで『75度で1分間』熱すると死ぬらしいんですよ。ただ、調理の仕方によると75度で1分も熱をくわえたら素材がおかしくなるケースもあると思うんで、なかなか全部には適用できないとは思いました」

――時間が経つことで増す食中毒リスクについてはどのように考えていますか。

「弁当には『今日の何時までが消費期限』っていう表示があるはずですが、その「消費期限」は細菌検査の結果合格とされた期間に安全率(※安全係数とも言う。ゼロよりも小さい数)をかけて出しています。実際に食べても問題ない時点よりも早く賞味期限を設定しているので、例えば弁当の消費期限が今日の夜の23時だったとして、それが23時1分になったからと言っても急に菌が増えていくわけではありません。うちでは賞味期限に設定した時間と、翌朝の3時や4時に細菌検査をして、どちらの時点でも合格しています。ただ、翌朝になる間に菌の数は、結構な速度で増えています。

ですので、『お宅の弁当は明日食べても大丈夫だから、明日の朝食に買っていくわ』とおっしゃっるお客様に、弁当がどんな状況かにも関わらず、業者の側から『大丈夫ですよ』とは決してお答えできないほど注意を払っています。

ただでさえ家庭で作るお弁当は菌がついてしまいやすく、特に今の季節は炎天下の中、学校まで持ち歩き、クーラーの効いていない教室に置くことになるので、できる限りの対策をしていただければ」

◇ ◇

食中毒の危険性を考えると…おかずは火が通ったものを、ふたを閉めるのは粗熱を取ってから。食材を手で触らないといけない場合はラップ越しにといった、家庭でのお弁当作りでも「付けない」「増やさない」「やっつける」を心掛けたいですね。

◇ ◇

弁松総本店ではお店がある「日本橋」の街を盛り上げようと、老舗の若旦那や地元に住む有志とでユーチューブチャンネル「日本橋もの繋ぎプロジェクト」を1年前から始動。日本橋本町、日本橋茅場町、日本橋人形町など住所に日本橋がつくエリアにあるお店を、老舗でも新店でも、飲食や物販などジャンルを問わず、看板商品の物々交換をしながら数珠つなぎ式で紹介。お店の店主や販売員のキャラクターに注目し、「日本橋は伝統があって敷居が高いと感じている人もいるかもしれません。でも、お店の人たちは面白い人ばかりなので遊びに来てもらいたいな、という思いで作っています」とのことでした。

■日本橋弁松総本店の公式Twitterアカウント https://twitter.com/benmatsu1850

■日本橋弁松総本店 https://www.benmatsu.com/ 
■YouTubeチャンネル「日本橋もの繋ぎプロジェクト」https://www.youtube.com/@nihonbashi_monotsunagi

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