生まれて初めての田植えを体験してきた。
このブログでもおなじみの兵庫県篠山市を舞台とした里山プロジェクト「ミチのムコウ」2年目の田植えがGW後半、4日間にわたって行われた。
私が参加したのは5月5日午後の部。貴重な機会だからと幼児を除く孫5人とその親たちもエントリーさせてもらい、たっぷりと水の張られた田んぼの畔に立った。
自分が生まれ育った岡山県真庭市(旧北房町)の風景を彷彿とさせる季節の風景が広がる。田んぼの真ん中で生まれ育ったとは言うものの、実家が農家ではなかったこともあり、田植えを経験したことはない。
毎年、田植えのこの時期と、秋の稲刈りの時期になると、小中学校では「農繁休暇」という特別な休日が数日設定された。一年で一番忙しい田んぼ仕事の手伝いをしましょうという趣旨の配慮だった。
家の周りを見渡せば、あちこちの田んぼに大勢の人が並び、腰を折り曲げて苗を植えながら後ろへ後ろへと下がっていく様子が目に入ってきた。それを眺めながら、毎回手持ち無沙汰の休日を複雑な思いで過ごしたのを覚えている。
昨年、「ミチのムコウ」のイベントに参加するために買ったゴムの長靴は役に立たないという連絡が事前に事務局からあった。一歩踏み出したところでぬかるみに沈み込んでしまい、抜こうとしても足がすっぽ抜けるだけなのだという。
勧められた足元のいで立ちは、専用の深い長靴、地下足袋、マリンシューズ、あるいは素足に靴下を重ね履きすること。思い切って「裸足そのままでは?」と尋ねてみると、ぬかるみの中には小石をはじめ思わぬものが潜んでいて、足の裏を傷つける可能性はあるが、やはり一番心地よいのは裸足ですよね、そう言われて腹を決めた。
田んぼに足を入れると足元は想像以上の緩さで、足首の上まですっぽり沈み込んでしまう。簡単なレクチャーを受ける段になって、驚いたのは手渡された稲の苗のか細さ、根っこの部分の頼りなさだった。それを3本ばかりまとめて摘まんで、指の第一関節が泥に埋まるぐらいの深さに植えこんでください、と言われて試してみると、ぬかるみの中どこまでも苗が沈み込んでいってしまう。
それでは、と言われた深さで指を離そうとすると苗の根元ははなはだ心もとなく、水に浮かんでしまうのではという心配がぬぐえない。
「大丈夫です。それで1週間もすれば、ちゃんと根を張って軽い力では引き抜けなくりますから」
3本ほどというのにも理由があって、それで育てば20本ばかりに増株していく。この本数を増やしてしまうと、後で株が大きくなり過ぎて風通しが悪くなって病気にかかりやすくなるのだそうだ。
手持ちの苗がなくなると、声をかければ畔に立ったスタッフが新しい塊を投げ込んでくれる。うまく受け止められればよし、外すとぬかるみの中に落下して周囲の人に泥をまき散らすことになる。受け取り損ねて自らダイビングする人も。わーわーきゃーきゃー、大人も子供も大はしゃぎだ。そんな中でおよそ2時間。その日参加した30人ほどで予定された田んぼ2枚に苗を植え終えた。
この日植えたのは昨年と同じ五百万石という酒米。順調に育てば9月の第1週あたりが刈り取りの時期となり、乾燥、精米後は地元の狩場一酒造のタンクに寝かせられる。
田んぼから上がり、横を流れる用水路に降りて泥だらけの足、手を洗う。左足裏、親指の付け根あたりの痛みに気がついた。見れば石のかけらでも踏んだのか、知らない間に大きな切り傷ができている。それでもやっぱり裸足でよかった、と思う。命の輪廻を素肌で感じられた代償と思えば。