「先日、レンゲ畑へどこかの幼稚園・保育園のバスが乗り付け勝手に園児を遊ばせていたと通報を受けました。圃場内にはマダニやヤマカガシなどの有毒生物が多く大変危険です。また圃場は私有地であり許可なき立入は罰せられます。ましてや子供を預かる人間がやっていいことではないですよね。本当に深刻な内容です。当人たちは軽い気持ちで行っているのかもしれませんが、子供の命を危険にさらすのと同時に犯罪行為を助長しています」
【警告】 の言葉とともにレンゲ畑への許可なき侵入を行わないように訴えたのは、神奈川県座間市でレンゲ栽培米『ざまのおこめ』や野菜を栽培する座間ゆたか農園(@yutakanouen831)。事の顛末と農作物づくりへの思いを聞きました。
不法侵入であると同時に、毒蛇に噛まれる危険性も
田んぼや畑に咲いているレンゲは勝手に根付き、花開いたわけではありません。すべては生産者が種を播き、育てたもの。「緑肥(りょくひ)」として土づくりの一助を担い、お米や農産物の肥料になるのです。しかし、そんな事情を知らず、野菜やお米を育てる圃場(ほじょう)であるとは想像もせず、「こんなにいっぱいレンゲが咲いているなんてステキ!ちょっと遊んでいこう」となる人がいるのでしょう。
「これまでも、知らない人(大人)が勝手に畑に入っていることはありました。見かけて注意したことは何度かあります。車で乗り付けて家族で遊んでいたり、姿こそ見ませんでしたがバイクで走ったような跡があることも」と座間ゆたか農園の農園主。
バスで乗り付けた子どもたちが大人数で遊ぶ今回のような事態は初めてだったそうで、「農地は私有地である」ことと「無配慮で遊ばせる危険性」を広く知ってもらうために、SNSで発信しました。
投稿には、同様の被害を受けた農業従事者の声や「園児が事故起こしたら、被害者の地主さんが逆に訴えられる」「勝手に入って、もしケガや亡くなる事が合ったら幼稚園、保育園はどう親に説明するの」「北海道あたりだと、観光客が勝手に牧草地に入ってきて困るという話も」という声、警察に被害届を出すことを勧める声も寄せられました。
これらに対して、「個人的には、事前の連絡や引率者の責任において安全対策を敷いた上で子どもが花や自然と触れ合うこと自体は悪いことではないと思っています。でも、子どもたちが勝手に入ってしまうのと、常識あるべき大人が勝手に子どもを遊ばせたり緑肥作物であるレンゲを踏みつぶしたりしているのは、ちょっと違うと思います。農地は私有地であり無断で立ち入る場所ではありません。引率者はそこを理解し、大人として責任を持って対応いただきたいです」と答えてくれました。
今回問題があった圃場は、広い場所だったこともあり、商材撮影用と周囲から眺めて楽しんで貰えるように最後までレンゲの花を残していました。来年からは新たな対策を講じるのか?という問いに対して、「この場所以外に、十余か所以上の圃場にレンゲの種を播いています。すべての圃場で対策を行うのは難しいので、多くの圃場では軽く咲いたらすぐにすきこむ予定です。ただ、これは今年もやっていたこと。今回の圃場に関しては、来年も今年と同じように残しておこうかなと思っています。ただし、立て看板等の増設はやむを得ないでしょうね」と答えます。
SNS投稿後、該当保育園から謝罪が
取材の連絡を行っている最中、新たな展開がありました。農園へ保育園から連絡が届いたのです。「保育園の代表の方からお詫びの電話がありました。できれば直接こちらへ来て謝罪をしたいとのことでしたが、誠意を感じられたので無理にお越しいただかなくても大丈夫と話をしました」。
正直に名乗り出てくれたことを大変喜ばしく感じたと話す農園主は、改めて「当該保育園の代表者様、また各方面のリプ欄やコメント欄等にてご理解とご協力を賜った皆様には心よりお礼申し上げます。そもそも私自身怒っていたわけではありません。私有地であることや圃場内は危険も多く勝手に入ってはいけないことを理解していただいたので、今回は特に問題ないと思っていて、これで一件落着だと考えています」。
また、「保育園の方にも伝えましたが、弊園の管理圃場にあっては、事前連絡のうえ、保護者の責任の範疇でルールを厳守いただければ、レンゲ畑の観覧や子どもたちが遊ぶことを可能としています。怪我などのリスクを無視して勝手にさせるのは圃場管理者としても無責任な行為です。子供たちが安全に楽しく過ごすのに必要なルールや我々現場の人間しかわからない注意事項を伝えますから、引率する大人の責任で子どもたちを守っていただきたいです。それが、我々大人が果たすべき責務であると私は思います」と述べました。
「たぶん日本で一番意識の低い農家」がめざす農業は
座間ゆたか農園は、自称「たぶん日本で一番意識の低い農家」。「やらなくていいことはやらない」をモットーに、人為的な水やりさえ極力行わず、できるだけ自然の力を借りて、減農薬で栽培。昔から伝わる知恵と科学的な見地からの力を借りつつ、誠心誠意農業に向き合っています。
農業の魅力について、「自然環境と切っても切れない関係にあり、常に変化に富んでいる。それが困難さでもあり同時に面白さでもあります。まったく同じ正解というものが存在しません」と語ります。
精魂込めて作った米や野菜を「お金を払って、食べてもらえる瞬間が一番うれしい、美味しいと思ってもらえたら本望」ですが、それゆえ直売所などに度々現れる泥棒には怒りを隠せません。「何度か捕まえたこともありますが、結局いくら捕まえても跡を絶たず本当に悔しい。対価を支払っていただいているお客様にも大変申し訳ない気持ちでいっぱいです」。
食べる人の口に入るものを作る生産者として、最大限の責任を果たすためにも、正当な対価を得ることには妥協できないと考え、「お金をいただくことで、毎年必要となるレンゲの種代やその他の必要な資材費など作物の生産・管理上の安全性や品質の確保に充てられます。また、栽培技術や食味の向上に努め、お客様に喜んでもらえるよう改善を繰り返すこともできます」。
今回のレンゲ畑への勝手な侵入は食べる人と生産者の間で、農地や農産物づくりの認識にギャップがあったがゆえのできごと。所有者の許可なく勝手に田畑に入ることは怪我などの危険に加え、農作物の育ちにも影響が出ます。おいしい農作物のためにも、くれぐれも勝手な立ち入りは控えてください。
■座間ゆたか農園Twitter @yutakanouen831
■座間ゆたか農園HP https://yutakagrp.com