サッカーJ1京都サンガFCのホームゲームで必ずかかっている名物の横断幕がある。
「共に闘おう!俺達がついてるぜ」
縦1メートル、横12メートル。白地の布に墨で書いたシンプルなもの。色はくすみ、生地も傷みが目立つ。紫色を使ったスタイリッシュな他の幕に囲まれると、明らかに浮いてみえる。
「あのころは弱かったし、すべてがぐちゃぐちゃやった」。サポーターから「団長」と呼ばれている吉田亘輝さん(52)=草津市=は、この横断幕が生まれた経緯を語り始めた。
まだ京都パープルサンガと名乗っていた1996年。サンガは悲願のJリーグ加盟を果たした。だがシーズン開幕後、悪夢の17連敗を喫し、元日本代表のラモス瑠偉ら「大物」選手を次々に補強した。結果、選手とサポーター、フロントの関係はぎくしゃくし、いがみ合うような雰囲気があった。
今でこそ、チームを応援する横断幕は当たり前にあるが、当時は特定の選手向けのものしかなかったという。サンガの草創期からサポーターのリーダーだった吉田さんは「応援する者としてサポーターだけでも一つにまとまろうよ」との思いで、仲間に横断幕の作成を提案した。
それが「共に闘おう!俺達がついてるぜ」だった。生地を買ってきて、筆を重ねぬりして仕上げた。吉田さんはホームだった西京極陸上競技場に毎試合掲げ、アウェーの時も持っていった。
10年ほど使い続けて、新しいものに交換した。いまの横断幕は「2代目」だが、メッセージは全くおなじで、もう10年以上使っている。
防水加工はしておらず、雨にぬれたら自宅の庭で乾かす。破れたら、針と糸を持ち出して自分で補修してきた。「ぼろぼろ」であっても、ともに闘ってきた“パートナー”だ。
3年前、サンガのホームは、西京極陸上競技場(京都市右京区)から、現代的なサンガスタジアム京セラ(亀岡市)に移った。若手のサポーターの中には、吉田さんの横断幕を「ダサい」と煙たがる空気もあるという。
吉田さんは滋賀県内の繊維メーカーに長年勤める。工場で働き、数年前に管理職になった。それでも、よほどのことがない限り、アウェーを含めて全試合サンガの応援に駆けつける。
そんな生活を続けてもう30年。なぜ、そこまで身をささげるのだろうか。
「俺、たぶんサンガの応援が好きなんやろな。このチームを応援するのが好きなだけや」
横断幕は試合の中継画面で映ることがある。年季の入った吉田さんの幕も。それは、古い仲間へのメッセージでもある。
「もう年やし、応援にいけへんわとスタジアムから足が遠のく人が増えてきた。そやから、まだあの幕を張ってるな、と思ってもらえるサポーターがいたらいい。それと、俺はまだやってんねんぞ、おまえら来いよ、というのもあるかな」と照れくさそうに笑った。
今季のサンガは「タイトル奪取」を目標に掲げる。リーグ戦は開幕2連敗を喫したが、そこから2連勝した。新たなステージをめざすクラブだからこそ、積み重ねてきた歴史とDNAを受け継ぐことを忘れてはならない。
「団長」は、取材の終わりにぼそっとつぶやいた。「いい生地が見つかったら新調はするよ。言葉は変えへんけど」