元Jリーガーがオープンした唐揚げ店 チーム解雇で「頭が真っ白」になるも第二の人生「キックオフ」

京都新聞社 京都新聞社

Jリーグ京都サンガFCの元選手2人がこのほど、京都市中京区で鶏唐揚げ店をオープンした。加藤順大さん(37)と、前川正行さん(38)。「プロのセカンドキャリアとして新たな可能性を示したい」と、調理や接客に励む。店名は「キックオフ」。元Jリーガー2人が新たな戦いをスタートさせた。 

その店は、JR円町駅から徒歩で10分ほどの、西小路通沿いにある。「スポーツの日」に合わせてオープンした10月10日、大勢のサンガファンらでにぎわっていた。会社員の久堀嘉洋さん(45)=長岡京市=は「試合で見ていた選手と、こうして店で出会えるのは不思議な感じ。親近感を感じます」。長男とともに、熱々の唐揚げをほおばった。

来客がサッカー談議に花を咲かせる様子に、加藤さんは「こんなにたくさん来てもらえて、うれしいですね」と喜ぶ。

埼玉県出身の加藤さんは、俊敏なセービングとともに、足元の技術も高いGKだった。強豪の浦和でプロ入りし、正GKを経験。大宮を経て、2019年からサンガで2年間プレーした。今年から、サッカーとゴルフを融合させた「フットゴルフ」のプロに転向している。

同い年の前川さんは三重県出身。正確なキックを武器とする中盤の選手で、名門の東福岡高で主将となり、全国高校選手権で4強入りに貢献した。サンガでプロ入りしたが2年間で契約満了となり、当時JFL(日本フットボールリーグ)の愛媛FCを経て引退。京都府内の焼き肉チェーン店に就職して接客の楽しさを知り、店長も務めた。

サンガで同シーズンを過ごしたことはない2人だが、初めて出会ったのは小学6年生のころ。当時静岡に住んでいた加藤さんと、三重の前川さんは、ともに東海選抜に選ばれチームメートになった。それから約20年後、サンガに加入した加藤さんが、前川さんの焼き肉店を偶然訪れ、再び親交が始まった。

現在はともにユニホームを脱いだ2人。「もう一度自分たちの力でチャレンジしたい」と、一緒に店を開くことを考えた。前川さんは飲食業の経験を積み、加藤さんも料理好き。流行に左右されず誰にでも愛されるメニューを提供しようと、鶏の唐揚げ店を選んだ。

唐揚げはさくさくとした食感で、だしのうま味が効いたジューシーな味わい。3個入りが「ハットトリック」など、メニューはサッカー用語で表現する。現在はカウンター8席を配し、持ち帰りにも対応。夜間は唐揚げだけでなく、肉料理など居酒屋メニューを提供する。

内装は仲間とともに自分たちで仕上げた。2人が過去に所属したチームなどのユニホームを飾り、床にはサッカー用の人工芝を敷いた。大型テレビでスポーツ観戦も楽しめる。サッカーをしている子どもが来客すると、壁に将来の夢を書いてもらっている。 

店名の「キックオフ」には、新たなスタートを切る2人の決意を込めた。前川さんはサンガに解雇された当時を振り返る。「頭が真っ白になった。選手がサッカー以外のことを考えるのは悪、みたいな雰囲気があって、引退後のことは何も考えていなかった」。プロ選手の誰もが、引退した後もサッカー関係の仕事に就ける訳ではない。選択肢の一つを体現したいという思いがある。店頭には「プロサッカーセンシュノカラアゲヤ」と書いてアピールした。

加藤さんは「他にも出店したい選手がいれば協力したい。子どもたちにサッカーを教えたり、地元にも何か還元できれば」と夢を膨らませる。前川さんも「大勢に気兼ねなく足を運んでもらい、サッカーの話をしたり、わいわい楽しめるような店にしたい。これから楽しみですね」。 

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