六本木にあるスペイン大使館から招待状が届いた。
縁をつないでくれたのはこのブログでも何度か紹介したピアニスト、作曲家の川上ミネさん。彼女が中心になって橋渡し役を務めたスペインの世界遺産サンチャゴ巡礼路と日本遺産西国三十三所観音巡礼の友好提携締結の調印式が、4月18日にスペイン大使館で行われることになった。そのセレモニーと祝賀パーティーに是非、とKBS京都の細井社長とともに誘われた。
スペイン西北端にあるキリスト教巡礼の終点サンチャゴ・デ・コンポステーラは川上さんが暮らす町でもある。キリスト教と仏教という宗教の違いを越えて、巡礼という共通の文化を認識し合うことで両国の友好をさらに深めることができれば、と日本(京都)とスペインを行き来しながら人の輪をつなげ、広げていったその成果でもある。
式典に招かれた人はおよそ百人。来賓の筆頭は下村博文日本遺産推進議員連盟会長(元文部科学大臣)、主催者側からはフィデル・センダゴルタ駐日スペイン大使、日本遺産「日本終活の旅」推進協議会幹部の幹部を務める西国三十三所の札所の僧侶らが顔を揃えた。
調印を終えたばかりの提携書が紹介された後は、川上ミネさんのミニコンサート。慶長遣欧使節の支倉常長の旅をイメージした「月の浦~コルドバ」をはじめ、巡礼者の喜びを表現した「サンチャゴ・デ・コンポステーラ」など、巡礼をテーマに自ら作曲した作品を中心に4曲を披露した後、最後は今回のプロジェクトのために産み出されたばかりの「カンポ・デ・エストレーラ」を披露して締めくくった。
カクテルパーティーは敷地内に建つ大使公館に場所を移して催された。開放された応接室、ダイニングルームから通路まで、百人の招待客ですし詰めのにぎわい。用意された料理は大使館のシェフが腕を振るったスペインの前菜タパスの数々。日本側は銀座の高級鮨店「久兵衛」から職人が派遣されて次から次に鮨を握った。
今後は6月にサンチャゴ、西国三十三所、坂東(関東地方)三十三所などで日にちを合わせて同時巡礼のイベントが行われるほか、10月には日本からの一行がサンチャゴ大聖堂を訪ねる催しも予定されている。
川上さんと初めて会った時、世界各所を転々とした末にサンチャゴに居を定めた理由を尋ねると「とにかく魚がおいいしいから」という答えが返ってきた。この日は別の魅力について聞くことができた。
自宅の窓からは数千キロに及ぶ巡礼を終えようとするキリスト教徒たちの姿を目の当たりにすることができる。靴は破れ、足の指を血だらけにしながらそれでも前を向いて終着点の大聖堂を目指して歩く人たちの眼差しに惹きつけられたから。スペイン語で「星の野」という意味のコンポステーラの星空が好きだから。
手元に2枚の地図を広げてみる。1枚は記念式典の資料の中にあったサンチャゴへの幾通りかの巡礼路を示したスペインの地図。もう1枚は日本を中心にした世界地図。日本からスペインまで、飛行機で一体何時間かかるのだろうか。さらにその先、巡礼の道を体験するとしたら…。川上さんからは顔を見る度に「是非サンチャゴへ!」と誘われる。
奇しくも今年の神戸マラソンの一般公募が始まった。三度目の挑戦を断念したわけではない。サンチャゴを歩くか、神戸を走るか。とんでもない二択であることは重々承知しているが…。