「トイレトレーニングは、2歳半以降に焦らずに行うことをお勧めします」と、小児専門病院「東京都立小児総合医療センター」(東京都府中市)が、早すぎるトイレトレーニングに警鐘を鳴らしています。その理由は、2歳までの子どもと大人に”排尿の仕方(おしっこの仕方)”の違いがあること。同センターに詳しく話を聞きました。
同センターの泌尿器科によると、トイレトレーニングの開始目安が”1歳半から2歳頃”と表記されることもあるそうですが、それでは早すぎるとのこと。その理由として、大人の場合は力を抜いて排尿し、2歳までは力んで行うという、排尿の仕方の違いを挙げています。その頃にトイレでの排尿を強制すると、その後、問題を抱える原因になりえるというのです。
注意喚起に対して、「知らなかった!あまり早くにトイトレしちゃダメなのね」「今年やろうと思ってたけど来年にするかな……」「トイトレまだ?って言われてたけど安心した」といった安堵する反応や、「私の経験上、1歳児クラス(2歳になる年)でトイトレ始めると後々3歳児クラスくらいになってから急におもらしするようになること結構ある。だからまだ娘のトイトレ全然始めてないってのもあるけど、ちゃんと理由があったんやな」など、これまでの経験と照らし合わせた納得の声が寄せられていました。
また、小さな子どもと大人との排尿の仕方の違いについては、「この間遊んでた時に隣でおもむろに力んでて、うんぴか!?って思ったら『しょわわわ〜』って音が聞こえて『おしっしーも力んでするんか!!』って思ってたところだったのだ」「たしかに踏ん張ってる。2歳4ヶ月ぐらい。座りたがるからトイレに座らせて排尿させるけど、家ではお風呂前と起きた後だけしてます。保育園では保育士さんの方針にお任せです」といった経験談もありました。
育児や教育について情報発信する複数のサイトによると、トイレトレーニングを「何歳から開始するべき」ということはなく、基本的には子ども1人ひとりに合わせてといった論調。
そんななか「2歳のトイレトレーニング方法」を提案する記事もありましたが、多くのサイトが、大人に対して意思表示ができる精神の成長と、おしっこと次のおしっことの間隔が2~3時間(短いサイトで1時間30分)、トイレまで歩けて、便座やおまるに座ることができる体の成長を条件として挙げていました。しかし具体的に、なぜ無理させてはいけないのかまで説明しているものは見当たりませんでした(2023年3月24日時点)。
大人とはまったくちがう排尿の仕方
子どもの排尿の仕組みについてさらに詳しく、そして、無理なトイレトレーニングによる影響などを、東京都立小児総合医療センター泌尿器科部長の佐藤裕之(さとう ひろゆき)先生に聞きました。
――改めて「トイレトレーニング」とは?
「ここでのトイレトレーニングの意味はいわゆる『おむつを(早く)やめられるよう、おまるや便器で排尿するよう促すトレーニング』を意味します。本来のトイレトレーニングは排尿するための姿勢、排尿後のふき取り、下着のおろしかたなど、トイレで排尿する仕方を覚えるトレーニングを指導するものを意味しています。例えば、大人ならば、尿が膀胱にたまっていないのに採尿してきてくださいと言われるような、排尿を強制するものではありません」
――子どもと大人の排尿の仕方のちがいについて、詳しく教えてください。
「2~3歳頃までは成人と異なり、膀胱が未熟な状態で、反射的に排尿しています。そのため尿がたまるとすぐしてしまうのです。排尿している時は、膀胱の内側の圧力が高くなっていること、つまり、腹圧(横隔膜の下の、内臓が集まっているところにかかる圧力)がかかっている、力んでいる状態であることが知られています。
3歳以降の場合、排便は力を入れますが、排尿は基本的に力を抜いて行います。膀胱機能が成熟し、ある程度の尿をためることができるようになれば、『この辺でトイレに行っておこう』という感覚で漏れそうになる前にトイレに行くことができるようになり、トイレでリラックスをしていれば勝手に排尿するようになります。自律神経で調整されている排尿は『出せ』と意識してするものでなく、蓄尿(膀胱に尿をためる)から排尿に切り替わるのを待つ形で排尿が始まります」
――子どもの排尿の仕方の違いは、性別でちがいますか。それはトイレトレーニングを始めるによい時期と関係しますか。
「性別の違いについて、男性は尿道の構造上力を入れても排尿しづらいですが、女性の方は腹圧をかけて排尿しやすいため、1歳半~2歳でもトイレで排尿ができてしまう可能性は高いです。実際の排尿機能の成熟化に関して男女差は明確ではないので、どちらでも3歳以降ぐらいのトレーニングでよいと考えられます」
――子どもに無理なトイレトレーニングをさせるとどうなるのですか。
「無理にトレーニングを行うと
①全く本人の尿意を無視した形で排尿を強制させることになり、尿意獲得が不良になる。つまり、うまく尿意を感じ取れなくなる可能性があります。尿がたまってきたことを感じ取って、尿失禁をしないようにトイレに行き排尿する習慣がつくのが遅くなってしまう場合もあります。
②『排尿は力を入れて行うもの』といった誤った排尿習慣が身についてしまう
③尿意獲得が不良なため、『トイレに行っておかないと』という強迫的な感覚が起こる。実際に機能的膀胱容量が小さくなり、膀胱に尿が貯められなくなる可能性があります」
――病院に寄せられる子どものおしっこに関する悩みで多いものは?
「病院に寄せられる排尿の悩みは、①尿が漏れる、トイレに間に合わない(昼間尿失禁)②寝ている間に尿を漏らす(夜尿)③トイレが近い、が多いです」
――それらの悩みと、投稿した「排尿の強制」で起こった「排尿機能異常」との関係は。
「トイレトレーニングの失敗による排尿機能の異常が明確化されている報告は少ないですが、膀胱に尿をためなくなると成人でも膀胱容量が小さくなることも知られています。トイレやおまるでの排尿を強制すると、膀胱にしっかりためて排尿するということを身につけるのが遅れ、気になるとすぐトイレに行くようになる可能性があります。
また、強制的な排尿は正常な蓄尿・排尿の状態を崩してしまう上に、その結果として早くおむつが外れた後の尿失禁という症状で問題が表に出る可能性があります。まだ幼く、膀胱機能が未熟な状態でトイレトレーニングを強制するなど、自然ではない排尿をさせるといった奇異な排尿は、その後の尿失禁や、頻繁にトイレに行きたくなるといった症状がある膀胱の過活動性に影響する可能性があります。腹圧をかけないと排尿できないような疾患のお子さんが、尿失禁を認めたりすることはよく知られています」
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2~3歳までの子どもは「おしっこがしたくなってきたな……」と感じてからではなく、反射的に尿を出すことを把握するだけでも、トイレトレーニングへの取り組みが変わってくるのではないでしょうか。トイレやおまるではなく、おむつに排尿している期間は、膀胱が尿をためられるように成長して、自律神経が安定し、自然と尿意を感じ取れるようになるのを待つ、必要な期間なのです。
■東京都立小児総合医療センター 公式サイト https://www.tmhp.jp/shouni/
■東京都立小児総合医療センター 泌尿器科 部長 佐藤 裕之 先生
https://medicalnote.jp/doctors/160307-001-IN
■東京都立小児総合医療センターの公式Twitterアカウント 都立小児総合医療センター(@TMCMC_pr)https://twitter.com/TMCMC_pr