じわじわ痛い、でも猫好きならうれしい? 美大4年生の脚光浴びた作品のコンセプトは「バズる」 制作者の狙いを聞いた

中将 タカノリ 中将 タカノリ

国立新美術館で2月25日から3月5日まで開催された「2022年度 第46回 東京五美術大学 連合卒業・修了制作展」(通称「五美大展」)。東京に所在する5つの美術大学の学生たちにより数々の作品が出展され話題になったが、中でもSNS上で大きな注目を集めた作品がある。

それは女子美術大学立体アート専攻4年の松村柚果さんが制作した石膏像「猫抱き」。江戸時代におこなわれた拷問「石抱」を模したデザインで、丁髷姿の男性が三角形の木を並べた台の上に正座させられているのだが、石の代わりに何匹もの猫たちに膝に乗られているというものだ。

そのユニークな発想と確かな造形力に目をとめたSNSユーザーの4139さん(@413s9)が「めっちゃ非道な拷問受けてる作品あって草。最高」と紹介したのをきっかけに大きく拡散。

SNSユーザー達から
「幸せの重み地獄の痛み」
「猫様を抱っこもなでなでもできない拷問つら過ぎる...」
「顔が苦悶から苦をとったちょっと切なそうな感じがやばい コレはキマってる」
「この人もしかして猫アレルギー?」
「一瞬、天国のように見えるが大人の猫は5kg以上あるのでそれが太ももに長時間乗るとジワジワくる苦痛なので地味だけどかなり効く拷問」
など数々の絶賛の声や作品の背景について考察する声が寄せられた。

投稿者さんに聞いた

4139さんにお話を聞いた。

ーー今回、五美大展に足を運ばれた経緯をお聞かせください。

4139:趣味でイラストを始めたのがきっかけで美術作品にも興味を持ちました。その中でも特に美大生の方々の作品は自由でパワフルで見ていて面白いなと思って、美大の卒展や大学祭の展示などに行くようになりました。

中でも五美大展は5つの美大の卒製の作品が一度に見られるため、大学ごとの雰囲気の違いも楽しめるので面白いため毎年欠かさず見に行くようになりました。

ーー「猫抱き」をご覧になった感想をお聞かせください。

4139:目に入った瞬間のインパクトがすごくて思わず二度見してしまいました。苦悶の表情を浮かべる男の人の上で自由気ままにくつろぐほのぼのとした猫のギャップがたまりませんでしたね。見ているうちに男の人の苦悶の表情も、どことなく苦痛というよりは触りたい…!というもどかしい表情にも見えてきました。

古来の日本に存在した石抱という重い石を乗せられる刑罰が元になっているようですが、それを猫に変えることでそれはとても不思議な雰囲気を作り出していて、発想力がすごいと思いました。

制作者に聞いた

見れば見るほどその特異な世界観に引き込まれる「猫抱き」。作品にこめた思い、今回の反響について作者の松村さんにお話を聞いた。

ーー作品の着想をお聞かせください。

松村:猫を飼っていると、忙しいのに膝に乗ってきたり猫に翻弄されることが多いです。私も半日猫が膝で寝ていたので何も出来ず一日が終わってしまったということがざらにあります。体はずっと固定されるし猫の体重も決して軽いものでは無いですが 、まぁ猫がするなら仕方ないと考えてます。そんな体験を面白おかしく伝えようと思った作品が「猫抱き」となります。

ーー作品を制作するにあたりこだわったことやご苦労されたことをお聞かせください。

松村:実はこの作品の目標はTwitterなどのSNSでバズることでした。私は造形力や想像力もない部類の学生なのでしょうもない作品を作りがちなのですが、どうしても大学に通っていた爪痕を残したくてバズらせるという事を念頭に制作していました。自分がバズらせるために考えた3つのワードは「猫」「日本」「出オチ」でした。

ーーそれを踏まえた作品に見どころは。

松村:猫と日本はともかく大切なのはこの出オチで、SNSで面白いと思わせることができる制限時間は多分10秒そこらではないかなと考えました。そのことを踏まえてわざと分かりやすいインスタントな作品になっています。また写真にも撮りやすいように、横に広くなく近くで取りやすいデザインで、写真にとった時に全部の猫が映らないようにしています。立体作品なので360度作り込まれていて、投稿を見た人が展示を見に来て、こんな所に猫がいたんだという新しい発見があるようにしています。

ーー今回の反響についてご感想をお聞かせください。

松村:無事バズって安心しました。私の作品は、人の心を動かすような高尚な作品ではないことは分かっています。こんなものは芸術ではないと言われればそれまでですが、 自分の作品は五美大展の中で1番人のいいねを押す親指を動かした作品ではないかなと思います。

◇ ◇

「猫抱き」はきわめてユニークなコンセプトの作品だが、それにより芸術としての品格が損なわれるとは思えない。「バズる」という現象に真摯に向き合い、それを実現させた村松さんの現代的センスと手腕にはただただ驚かされるばかり。松村さんの表現活動が今後、実り大きなものになるよう願いたい。

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