米子市東倉吉町のタクシー会社の事務所跡地にエッグタルト専門店が登場した。店の外観はタクシー会社の車庫や社名がそのまま残っているが、エッグタルトは開店から短時間で完売するほどの大人気だという。人気の秘密が気になり、現地に行ってみた。
エッグタルトはパイやクッキー生地で作った器にカスタードクリームをのせて焼き上げた洋菓子で、ポルトガルやマカオ、台湾などで人気。山陰両県ではたまにコンビニのスイーツコーナーに並んでいるのを見かける程度で、専門店は珍しい。
現地を訪れると、タクシー会社共通の車庫と事務所が一体になった建物が目に入った。事務所部分に「トクイニコ」という店名が描かれ、エッグタルトの専門店が入っているようだ。車庫部分の上部にはタクシー会社の「つばめタクシー」という大きな社名の文字が残り、全体を見ると、ちょっと変わったたたずまいだ。
オープンから1週間で行列が
店主の高橋武尊さん(53)によると、店は2022年11月オープンした。13平方メートルの店内に電気オーブンや冷蔵庫を持ち込み、毎朝午前5時半から約150個のタルトを手作りし、販売している。
オープンしてから間もなく、タルトの珍しさとおいしさが口コミで広まり、約1週間で開店前から客の列ができるほどになった。開店が午前10時にもかかわらず、当初は午前中に売り切れるほどだった。4カ月がたち、最近は客足が落ち着いてきたが、それでも午後1時ごろには完売する人気ぶり。
高橋さんが作るのは、パイ生地を使ったポルトガル風のタルト。土台になる生地は、生地を渦巻き状に丸めたものを輪切りにして焼き上げるので、サクサクとした食感が楽しめる。国内の多くのエッグタルトはパンやクッキー生地で、しっとりした食感になるため、米子市民にとってパイ生地のサクサクとした食感は新鮮なのかもしれない。
使う材料には気を配る。生地に使うバターや、カスタードに使う牛乳やクリームは、大山乳業協同組合(鳥取県琴浦町保)の「白バラ牛乳」を使用する。高橋さんは「白バラ牛乳は安い牛乳にありがちな水っぽい感じがなく、味がしっかりしている。うちのタルトには欠かせない」と話した。ほかにも、卵は大山たまごセンターGP(米子市彦名町)から仕入れ、強力粉には大山こむぎを使用と、地元鳥取県の食材をふんだんに使う。
価格は1個200円(税込み)で、10個以上買うと合計額から10%引きになる。早速1個買って食べてみた。カスタードは卵の濃厚な味わいがある半面、甘すぎず、食べやすい味。さらに生地のサクサクとした食感が心地いい。200円で手軽に買えるので、人気になるのもうなずける。
移住のきっかけは新聞コラム
高橋さんは東京都武蔵野市出身。大学卒業後はシステムエンジニアとして東京や名古屋市で10年働いた。旅行でポルトガルに行った際にエッグタルトを食べてとりこになり、システムエンジニアを退職後に市内のケーキ屋で修行した。都内の実家に戻り、喫茶店を経営したり、ビルの喫茶コーナーで働いたりと、洋菓子作りに携わった。
2020年、新型コロナウイルスの感染拡大による飲食業の打撃や、実家の母親の死去を受け、都内以外での生活を考え始めた。移住先を考える中で、昔読んだ新聞のコラムにあった「米子市は景色が良い」という一節が「妙に頭に残っていた」(高橋さん)という。
当時は米子市が鳥取県だということも知らなかったが、現地に下見に行くと、程よい都会感と便利さを感じた。大山や日本海が近いという自然の豊かさと誰もが歓迎してくれる人柄の良さに感銘を受け、移住を即決した。高橋さんは「都内育ちの自分から見て人や物の距離感がちょうど良く、理想的な場所だった」と振り返った。
21年5月、米子市に引っ越し、当初は鳥取県の委託事業の調査員やさまざまな企業の派遣社員として働いたが、エッグタルト店をしたいという思いが募った。良い物件がないか市内を探索していた時、タクシー会社の事務所跡地が賃貸に出されているのを発見した。市街地で国道9号から近く、駐車場も付いているという条件から、すぐに契約を決めた。変わった外観の店になったが、高橋さんは「他の店と違うし、渋くて逆に良い」と笑った。
来店者にはポルトガルへの旅行経験がある人が多く「なつかしい。このエッグタルトの味を探していた」と好評だという。高橋さんは「予想以上に米子の方々にエッグタルトが受け入れられてうれしい。米子になじめるよう、これからも毎日こつこつとやっていきたい」と意気込んだ。
トクイニコの営業時間は午前10時から、タルトが売り切れるまで。店休日は毎月、末尾が1の日(1、11、21、31日)。