ウクライナとの戦争があぶり出した「多民族国家・ロシア」の暗部 動員されやすい“貧しい少数民族”

新田 浩之 新田 浩之

2022年2月24日にはじまったロシアによるウクライナ侵攻後、ロシアを取り上げるニュースでは、プーチン大統領の姿を見かけないことはありません。しかし、ロシアは多民族国家であり、プーチンのイメージばかりがロシアではありません。

 21の共和国が存在する多民族国家ロシア

ロシアは日本の45倍の国土を持つ国ということで、スラヴ系のロシア人以外にも様々な民族が住んでいます。その証拠にロシアにはクリミアを除く21の「共和国」が存在します。

共和国にはスラヴ系ロシア人以外の民族が住み、ロシアの多様性を象徴しています。一方、共和国はあくまでもロシア連邦に属し、連邦法を逸脱することは許されません。もちろん独立はご法度。過去にはチェチェン共和国が独立を目指しましたが、モスクワにより鎮圧されました。

 チベット寺院があるブリヤート共和国

筆者は2018年に21の共和国のひとつ、ブリヤート共和国を訪れたことがあります。ブリヤート共和国はモンゴルの北にあり、首都ウラン・ウデはシベリア鉄道線上に位置します。

ブリヤート共和国にはスラヴ系のロシア人の他にモンゴル系ブリヤート人が住んでいます。モンゴル系ということもあり、顔つきは日本人にそっくり。正確に書くならば、丸顔の方が多いように感じました。

ウラン・ウデ市内でバスを待っていると、スラヴ系のロシア人から「このバスは駅に行きますか」とロシア語で尋ねられました。もちろん、知る由がありませんから、そのまま「知りません」と返しました。

ブリヤート人はチベット仏教を信仰しています。そのため、ブリヤート共和国内には「ダツァン」と呼ばれるチベット仏教の寺院があります。

ソ連時代は宗教弾圧により、閉鎖になったダツァンも少なくありませんでした。ソ連崩壊後は宗教政策が改められ、チベット仏教は尊重されるようになりました。寺院を見学すると、中国では絶対に見られないであろうダライ・ラマ14世の写真がありました。

ところでブリヤート共和国ではロシア語と並んでブリヤート語も「公用語」として認められています。シベリア鉄道で出会ったブリヤート人に聞くと「小学校でブリヤート語を習う」と答えました。しかし、日常語はロシア語とのことです。

 戦争があぶり出したロシアの構造的問題

ウクライナとの戦争はブリヤート共和国にも暗い影を落としています。ロシアの独立系報道メディア、メディアゾーナによりますと、2022年2月24日から1年間において確認できるロシア側の戦死者は少なくとも約1万5000人としています。

このうち、ブリヤート共和国出身者は約450人にものぼります。これはロシア国内の自治体の中でも多く、経済的に貧しい少数民族が動員されやすいという実態を示しています。

昨年9月22日には一日でブリヤート共和国内の3000~5000人が動員されたという報道もあります。

一方、昨年3月にウクライナ・ブチャで発生した虐殺では多数のブリヤート人が関わったという事実が明らかになっています。11月にはローマ教皇が「ロシア軍で最も残虐な部隊は少数民族部隊」と批判しました。なお、バチカンはロシアからの反発を受け、上記の発言に関して謝罪しています。

今回の戦争では私が訪露した際には気づかなかったロシア社会の暗部をあぶり出したような気がしてなりません。

◆新田浩之(にった・ひろし) 1987年兵庫県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科修了。関西の鉄道や中欧・東欧の鉄道旅行をテーマとした執筆活動を行なう。最新刊として『いろんな民族と言語に出会う鉄道の旅』を刊行。コロナ禍前のヨーロッパ~東欧~ロシアを鉄道を通じてつぶさに観察したオールカラーの旅行記となっている。

三冬社。144ページ、1430円(税込)。

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