「毛には死臭がしみついて…」孤独死した飼い主の遺体と1カ月同居 壮絶体験を生き抜いた4匹の猫と、保護団体の想い

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

愛媛県松山市近郊で地域猫啓発活動をしている「ねこ☆にゃらーず」。運営する保護猫カフェ「ねこにゃらカフェ」には広いお庭があり、そこでは新しい家族を待つ猫たちがのんびり過ごしています。この庭を気に入っていた男性スタッフが、常に言っていたことがあるんです。

「うちの猫たちを、いつかこの庭で遊ばせたいな」

そして、こうも言っていました。

「僕が死んだら、猫たちのことをよろしくお願いします」

この時、男性は40代。誰もが冗談だと思っていました。

突然死への不安

地域猫啓発団体「ねこ☆にゃらーず」は、2007年から代表のNさんが発足させました。当初は個人での活動でしたが、徐々にボランティアスタッフの人数が増え2008年ごろから団体に。先述した男性も、10年ぐらい前からボランティアスタッフとして事務手続きなどを手伝ってくれていました。

ボランティア活動を始める以前、一人暮らしだった男性はいつも自分の死後、飼い猫たちがどうなるか心配していました。ちゃんと可愛がってくれ、病院にも連れていってくれる人に迎えてもらいたい。そんな不安を言葉にしていたため、「ねこ☆にゃらーず」代表のNさんはボランティア活動に誘いました。

引っ込み思案だった男性は友人が少なかったものの、ボランティア活動を始めてからはたくさんの友人が出来、表情はどんどん明るくなっていきました。しかし、消えない自分の死のイメージ。自身の父親が突然死しており、自分もまた突然死するかもしれない不安が常に付きまとっていたのです。

だから、Nさんや仲間たちに言いました。

「僕が死んだら、猫たちのことをよろしくお願いいたします」

当たってしまった予感

2019年7月末まで、男性はボランティア活動に励んでいました。事務手続きをしたり、HPを更新したり。それなのに、突然連絡が取れなくなってしまったのです。Nさんは何度も電話をかけるのですが、出てくれません。自宅まで足を運んだものの、ドアは開かれることはありませんでした。

9月になり、さすがにおかしいと感じたNさんは警察に連絡。2時間後、警察から電話があり、男性の様子を聞かされます。

「残念ですが、すでに…」

男性の不安は的中してしまったのです。享年53。8月上旬に亡くなっただろうと。

Nさんは言葉が出ませんでした。しかし、すぐ思い出したのです。それは猫たちの存在。5匹いるはず。それを警察に伝え、クーラーは切らないようお願いしました。

その1時間後、再び警察から電話がかかってきました。今度は男性が亡くなる前のことを根掘り葉掘り聞かれます。まるで容疑者扱い。

壮絶な1カ月間を物語る臭い

警察の実況見分が終わり、男性の自宅へ入っても良いという許可が下りました。すぐNさんとスタッフ2名で猫の救助へ向かいます。家の前に立つと、何ともいえない臭いが漂ってきました。

その臭いの中、スタッフは部屋の中に入るのですが、Nさんは行けませんでした。つい1カ月ほど前まで笑い合い、一緒に活動をしていた仲間がここで亡くなったかと思うと足が動かなかったのです。10年近く、共に時間を過ごしてきた仲間の死を受け入れられない。

そんなNさんを受け入れてくれたのは、スタッフたちです。Nさんを玄関先に残し、猫たちを保護してくれました。5匹いた猫のうち、1匹は腎臓病を患っていたせいか亡くなっていたものの、4匹は無事。「ねこにゃらカフェ」へ移動させます。

到着して気付いたのが、毛に死臭がしみついているということ。それが壮絶な1カ月間だったことを物語っています。大好きなお父さんの姿が、どんどんと変わっていく。それを間近で目にした猫たち。

Nさんは猫たちを丸刈りにしました。悲しみをまとったままじゃいけない。まだ暑い時期で良かった。

叶った願い、これからの想い

猫たちは初めて目にするお庭に大喜び。今までマンションの一室で暮らしていた分、思い切り外で遊びます。といっても、全員10歳以上ですから飛んだり跳ねたりはしません。風を頬に受け、空の高さを眺めることを楽しみます。奇しくも男性の願いが叶いました。

Nさんは笑いながらこう言うんですよ。

「生きてる時に、生活費を貰っておけば良かった」

そして、こうも言います。

「猫と暮らす方は、自分が先に逝くことも考えて貯蓄をしておいてください。お金があれば、いざという時に猫を迎えてくれる人が出てくるはずです」

誰しもに平等に訪れる「死」。その時を迎える準備に、年齢は関係ありません。大切な愛猫のためにできることは何なのか、それを一人ひとりが考えて行動する。それが重要ではないでしょうか。

男性が遺した猫たちは、それぞれ持病を抱えながらも新しい家族を待っています。

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