現在の40歳くらいを境に工作能力が落ちているという指摘がSNS上で大きな注目を集めている。
「参加者の工作能力が低すぎて、親子向けの工作を伴うワークショップが成立しなくなりつつある。成立させるには10年前の2倍3倍の時間をかけるか、極端に作業を単純にしなくてはいけない。作業中の怪我も多い。『刃先に手を置かない』と言った瞬間、刃先に手を置き、怪我をする。
聞いてみると、親子ともに工作初体験だから、素材の性質やそれに合わせた道具や身体の使い方に勘が働かない。そのため親が作業の監督をできない。『近頃の子供は…』的な物言いは50年以上前からされていると思うが、今の40歳くらいを境にして、工作能力に決定的な差を生む何かがあった気がしている。
10年前は『こんなこともできないのかー!こんなもんは、こうしてこうじゃー!』と、作業を全部やっちゃう親も多かった。今はそういう親は少なくて、子ができなくてもひたすら待つ。寄り添う。優しい(そしてそのためワークショップが時間内に終わらない)。この変化も面白いなと思っている。」
と投稿したのはアウトドアライターの藤原祥弘さん(@y_fomalhaut)。
長年、親子向けの工作ワークショップを開催しているという藤原さん。10年前であれば親がある程度、子供を監督、指導できていたのに、最近の40歳くらいの親になると子供と同じように工作の基本的なことから教えねばならず、ワークショップとして成立させるのが難しくなってきているそうだ。
いったい現在の40歳を境に工作能力に優劣が出てしまう理由とは…藤原さんの投稿に対し、SNSユーザー達からは
「親御さんのレベル差が開いてる感じがしますね……
ちょっと前だと『最大の敵はお父さんだ。子供の作業を取っちゃわないように気をつけろ』だったのが
ご両親どっちもたよりにならないパターン多くて、たまに『この親御さん、できる!』ってなると、お仕事が本職だったり……」
「1971生まれの男性ですが、80年代中盤あたりでオモチャの質と種類が豊富になって、遊びのベクトルが変わったという要素はないでしょうか。
古い家電などをただ分解するだけの遊びが成立した気がします。
(怪我もたくさんしました)」
「1990年度から中学の技術家庭が男女共修になり、その第1世代は1977年度生まれで今年度46歳です。それまで男子は木工も金工もやっていたのが、男女共修になって技術の内容はだいぶ減ったはずです。その後の学習指導要領改訂で、技術ではコンピュータも学ぶようになったので、工作はさらに減りました。」
「刃物だけでなく、ドライバーの使い方も知らない子が多いです。押し付ける力が弱くネジ山を潰してしまう子が多かった。
何かを作る機会が少ないのでしょうね。」
など数々の共感の声や考察が寄せられている。
投稿した人に聞いた
藤原さんに話を聞いた。
ーー工作能力の低下について感じていることをあらためて。
藤原:子供の工作能力は昔からそんなに変わっていないと思うのですが、大人の工作能力の低下が顕著です。10年前の40歳…つまり、今50歳くらいの方たちは子供はできなくても自分が指導したり、安全面の監督をすることができました。それが、今の40歳くらいの方たちは子供と同じように基本的な工具の使い方から教えないと何もできません。その分、時間がかかってしまい、これまでのようなワークショップのスタイルが成立しなくなっているんです。
ーー普段されている工作ワークショップの例をお聞かせください。
藤原:アウトドアライターをしている流れから、空き缶二つを重ねて小枝から効率的に熱を取り出せるウッドガスストーブの作り方や摩擦発火の起こし方を教えることが多いです。
ーーどんな工具を扱う時に低下を感じますか。
藤原:特殊なものではなく、できない方はナイフなど基本的なものすら扱えません。たとえば摩擦発火をする時、ナイフで板に切り込みを入れるのですが、持ち方、力の入れ方の時点ですでに危なっかしくて見ていられません。
ーー40歳くらいを境に工作能力が低くなってしまう原因について。
藤原:投稿の時点では「工作をする機会自体が減ってしまっているんだろうな」といった漠然とした考えでした。反響が増える中で1980年代初頭のガンプラブームや1980年代後半のミニ四駆ブームとの関連性を指摘する声があり、なるほどと思いました。1990年前後のファミコンやスーパーファミコンの普及で、それまでの屋内での遊びがテレビゲームに取って代わられたことも関連性があるのかなと思いました。
ですが、調べる中で学校の技術・家庭の授業内容が年代ごとに大きく変化していることがわかりました。昔は男女別で男子は工作、女子は裁縫や調理を学んでいたのが徐々に男女共通に変わってゆき、近年では新たにコンピューターなど新たなカリキュラムも増えています。その中で、工作を学ぶ時間数が極端に減ってしまったんですね。
「機械組立の部屋」というブログの記事で昭和30年代の中学校の図工の授業内容が紹介されていたのですが、図面の書き方から溶接、メッキなどプロ顔負けのカリキュラムで驚きました。時代による趣味嗜好の変化も多少は影響するでしょうが、やはり公教育の変化が一番大きな原因なのではないかと思っています。
◇ ◇
みなさんは藤原さんの指摘や考察についてどのように感じただろうか。年々、カリキュラムが増え、学校の教育現場で制約が大きくなっていることは理解できるが、いざと言うことに自らの手で道具を作り出す工作能力も人間の大切なスキル。どこかで学べる機会を設けて欲しいものだ。
なお藤原さんは2015年に出版された、12歳の理科知識で家一軒のソーラーオフグリッドを可能にする解説書「わがや電力 12歳からとりかかる太陽光発電の入門書(やわらかめ)」で編集を担当している。こちらも今回の話題に少し共通したテーマを感じる良著なので、ご興味ある方はぜひ手に取ってただきたい。
藤原祥弘さん関連情報
Twitterアカウント:https://twitter.com/y_fomalhaut
編集を担当「わがや電力 12歳からとりかかる太陽光発電の入門書(やわらかめ)」:(リンク)