動物病院に行くと看護師さんがおられますが、これまで動物病院の看護師さんは、人間を対象とする看護師とは違って、公的資格や免許もなく、その業務を根拠付ける法律もありませんでした。
獣医師法17条は「獣医師でなければ飼育動物の診療を業務としてはならない」と定めています。動物看護師は獣医師ではないため、診療行為はもちろん、それに付随して行われるレントゲン撮影や採血、投薬、マイクロチップの挿入作業などを行うこともできませんでした。
しかし、ペットの数がどんどん増え、獣医療も高度化・専門化することによって、動物看護師の重要性も高まっています。また、人と動物の共生を図る上で、ペットをしっかりとしつけることも社会的に求められるようになってきています。ペット診療における獣医師と動物看護師の共同作業体制の整備や、動物看護師によるしつけ教育活動を充実させることの必要性が強く認識されるようになってきました。
このような状況を受け、我が国では新たに「愛玩動物看護師法」(以下「法」といいます。)が定められ、「愛玩動物看護師」という国家資格が創設されることになりました。
令和5年2月19日、愛玩動物看護師の第1回国家試験が行われ、3月17日に合格発表があり、早ければ4月から免許登録し、「愛玩動物看護師」が活躍することになります。
「愛玩動物看護師」って何をするの?
「愛玩動物看護師」は、①獣医師診療の補助、②疾病・負傷したイヌ・ネコ・文鳥やインコなどの愛玩鳥といった「愛玩動物」の世話・看護、③愛玩動物を飼養する者等に適正な飼養等について助言その他の支援をすることができます(法2条)。
①の「診療の補助」とは、具体的には、獣医師の指示のもとに行う採血、投薬、輸液、マイクロチップの挿入、カテーテルによる採尿などが想定されています。一方で、レントゲン撮影やワクチン投与等、動物の身体への影響が大きい行為については、愛玩動物看護師がすることはできず、引き続き獣医師のみが実施することができます。
「診療補助」業務は、獣医師以外には「愛玩動物看護師」資格者しかすることが許されない独占業務となります。独占業務があることから、「愛玩動物看護師」ではない者が「愛玩動物看護師」と紛らわしい名称、例えば「動物看護師」「動物看護士」といった名称を使用することは禁じられます(法42条)。つまり「愛玩動物看護師」の国家資格を持っていない人は、たとえ民間資格を持っていても、採血やマイクロチップ挿入等の診療補助行為をすることはできません。
一方、②③の業務については、「愛玩動物看護師」でなくても行うことができます。ですので、動物病院において入院動物の食事や排泄等の世話をすることや、民間でしつけ教室、栄養管理指導、飼育の助言などをされている方への直接的な影響はありません。
「愛玩動物看護師」になるには?
「愛玩動物看護師」になるためには国家試験である「愛玩動物看護師試験」に合格して、農林水産大臣及び環境大臣(以下「主務大臣」とひとくくりにします。)から免許を受けなければなりません(法3条)。愛玩動物看護師として必要な知識及び技能について、毎年1回以上行われることになっています(法29、30条)。出題方式を含めた試験の詳細情報は、指定試験機関である「一般財団法人動物看護師統一認定機構」のホームページで公表されていますので、気になる方は参照してみてください。
「愛玩動物看護師試験」を受験するには受験資格が必要です
受験資格要件はかなり複雑なので、詳細は農水省のHPなどを参照していただければと思うのですが、ざっくり分類すると下記のようになります。
① すでに動物病院での看護業務や第一種動物取扱業の動物取扱責任者などの実務経験を5年以上有している方は、主務大臣の指定する「講習会」を受け、その後に実施される「予備試験」に合格することで「愛玩動物看護師試験」の受験資格を得ることができます。
② 新しく「愛玩動物看護師」を目指す方は、大学で主務大臣が指定する科目の単位を取得して卒業するか、もしくは都道府県知事が指定した養成所(動物専門学校など)で3年以上の教育を受けることで、「愛玩動物看護師試験」の受験資格を得ることができます。
③ すでに大学・養成所を卒業した方で、在学中に一定のカリキュラムを学んだ方は、「講習会」を受講することで「愛玩動物看護師」の受験資格を得ることができます。
①②③いずれかの方法によって「愛玩動物看護師の受験資格」を得た方が、国家試験である「愛玩動物看護師国家試験」を受験し、これに合格することで資格を取得できます。
最初に申し上げたとおり第1回の国家試験が令和5年2月19日に行われますので、記事執筆時点では問題の内容や合格率等は不明ですが、簡単に取得できる資格ではないことはおわかりかと思います。
「愛玩動物看護師」が国家資格となることで、従来は曖昧だった獣医療補助者の役割が明確化されますし、資格によってその技能も裏打ちされます。また、法律上役割分担が認められることによって、業務過多が問題となっている獣医師の負担を軽減することにつながる期待もあります。
さらに、専門知識を有する愛玩動物看護師は、動物病院だけではなく、ペットショップや各種教育機関などでも活躍の場が広がっていくでしょう。
今年から実務に出ていく愛玩動物看護師の活躍に期待したいと思います。