早い人なら小学校低学年から始める中学受験対策。毎年1~2月、私立を目指す小学6年生は受験本番を迎えます。子どもたちは何年も勉強に励んだ成果を、たった1回の試験で発揮せねばなりません。当然、精神的にも体力的にも厳しい戦いとなるでしょう。受験は子どもだけでなく、見守ってきた親にとっても大きな試練。試験前に少しでも不安を払拭しておきたいと思うのは当然の心理ですが、なかには間違った方向で子どもをサポートしてしまう親がいるとの噂も。ドラマなどで「お金を積んで裏口入学」「寄付金を払うと優遇される」シーンを見たことがある人もいるかと思いますが、実情はどうなのでしょうか。進学塾のエリアマネージャー・鈴木さん(仮)に『中学受験のお金にまつわるエピソード』について詳しく聞いてみました。
塾の費用だけで3年間で300万円かかるのに
――そもそも中学受験をするには、どれくらいお金がかかるものなのでしょうか?
塾の費用だけで、年間で100~150万円程度です。入会するだけで3万円、月々の授業料が5~6万円、教材費が年に1万円弱。さらに特別講習へ参加するために合計で30万円、特別なタイミングで行われる「特訓」や「集中講座」で5万円ずつぐらいかかります。塾は4年生から通う人が多いので、キッチリ3年間利用すると、合計250~300万円程度かかる計算ですね。
――塾代だけで300万…。加えて受験料金、入学金なども考えると、かなりの出費ですね。受験といえば、よくドラマで「我が子のためにお金を積む親」が描かれていますが、実際にいるのでしょうか?
稀ですが、確かにいらっしゃいますよ。毎年自分の塾の受験生が50~100名程度いて、毎年1家庭から相談をもらいます。ただ、頻度が少ないのにもかかわらず、「業界が黒い」「みんなやっている」という噂が広がってしまうのが中学受験の怖いところです。
――数少ないものの実在する話なのですね。どのようなケースがあるのか、具体的に教えてください。
例えば、「受験ブローカーは紹介してもらえますか」と聞かれたケースがありました。受験の2カ月前の面談で医学部を目指す生徒の母親から出た言葉です。医学部ではいわゆる裏口入学がささやかれがちなので、それを期待しての言葉かと。医学部出身者が身近にいれば正しい情報も入ってくるでしょうが、その方は医学家系ではなかったので必死だったのだと思います。
もちろんそんな怪しいコネはないため紹介できないとお伝えしたところ、実際に探して『自称・受験ブローカー』にお金を払ったそうです。すぐに塾を退会されてしまったため結果は分かりませんが、あまりいい想像はできません。
――実際、ブローカーにはどれくらいの信憑性があるのでしょうか?
残念ながら、受験ブローカーは基本「詐欺」だと思います。きっかけは知人の紹介や、学校とは別でやる中学受験の説明会。困っている人をターゲットに忍び寄る感じからして、非常に胡散臭いと感じます。保護者の方に「この人知ってますか」と名刺を見せてもらったこともありますが、当然名前や会社名を検索しても出てきませんでした。このご時世で良い噂も悪い噂も拾えないのは怪しいと言わざるを得ません。
ちなみに、他にも「頭が良くなる食事(サプリ)」を売りつけたり、塾以外の「中学受験対策セミナー」の参加を促す業者もいます。藁にもすがる思いというのは理解できますが、大半が本当に「藁」ですので気を付けてください。
ブローカー・寄付金・塾に積むお金…それぞれ相場はあるの?
――「寄付金で裏口入学」という噂も聞きますが、本当ですか?
あくまでもただの寄付であって、何の保証もないですよ。でも、進学希望の私立中学へ寄付の相談を受けたことは何度かあります。実際にいくつかの私立では寄付について記載されているページがあり、プリントアウトして持ってこられた方もいました。「どうやったら私からの寄付だと分かるんでしょうか?去年の受験生でそれで合格した子がいると聞きました」と言われた時は参りました。
「元々成績がいい子どもの親がたまたま寄付をしただけです」と説明しましたが、分かってくれたのかどうか…。成績に関わらず、寄付したら合格するものだと本気で思っているのだと感じましたね。
――進学塾へ現金で持参する保護者もいるそうですが…
母親との面談時、厚めの封筒とともに「これで合格させてください」と言われたことがあります。当然のように札束が入っていて戦慄しました。お金を出された時に「頂けません」と言った結果、後日同金額の商品券を渡そうとされ、「もう正気じゃないんだな」と。丁重にお断りしたところ、当日に退会のご連絡を受けました。
ちなみにお金を積もうとされた方でも、受験が終わると合格後に挨拶はあれど「お礼金」みたいなものは送られて来ませんでしたね。受験前に断ったからなのか、他にお金がかかるからなのか分かりませんが…。
――ちなみに、お金を渡された場合、塾での公式の決まりはありますか?
塾は保護者から、「教育サービスに必要なお金」以外は受け取ることはしません。たとえお土産であっても、合格後のお礼金でもアウトです。
会社でルール設定されているところもありますが、規則化されていなくてもヒイキなどに繋がってしまう要素なので受け取らないのが普通ですね。
――ブローカー・寄付金・塾に積むお金…。それぞれのパターンで相場はどれくらいになるのでしょうか?
保護者の話だと、受験ブローカーの費用は大体100万円単位。手付金や経費でかかるそうです。また合格した時の成果報酬も請求するとのこと。そもそも胡散臭い業者は塾に来ないので本当かは分かりませんが、捻出しようと費用を確保しようとする人がいるのは笑えません。
私立中学への寄付の相場は不明ですが、ある保護者からは10口程度寄付したと聞きました。ひと口大体3~5万円なので、30~50万円くらいになります。
塾へ裏口入学の斡旋を依頼する場合は、10万円から100万円単位の札束を用意する人もいますね。
お金で解決しようとしてしまう家庭の闇とは…?
――これらのお金は「中学受験のための必要経費」に上乗せして、かかるということですよね…。お金で解決しようとしてしまう親は、どのようなケースが多いのでしょうか?
「お金を出せばなんでもどうにかなる」という考えのいわゆる高所得者層パターンや、高所得者層でなくてもいくらでも教育にお金をかける方が多いように感じます。
なかでも、早いうちから塾に通っていたけど思うように成績が上がっていない子や、成績がギリギリ足りている綱渡り状態のご家庭、子どもの成績に不相応な学校を志望校に設定しているご家庭なども多い傾向にあります。
――追加でお金がかかっても、「お金を払おう」と思ってしまう保護者の背景にはどういう要素があると考えますか?
さまざまな情報が飛び交う昨今で、「中学受験のための必要経費」として捉える範囲が広がってしまっている影響もあるかもしれません。
あとは、やはり「安心を買いたい」「お金で買えるのなら喜んで出す」という心理から来るものが大きいでしょう。親心には変わりありませんが常軌を逸していて、子どもが知ったら複雑だと思います。受験というのがいかに人を追い詰めるのか、改めて実感しますね。
◇ ◇
最後に、「『金を出せばいいんでしょ』というスタンスが、『今まさに一人で勉強して戦っている子を裏切る行為』のように感じてしまった。『いつもありがとうございます』みたいな感謝の手紙の方がよっぽど嬉しい」と悲しそうに話す鈴木さん。
たとえ我が子のためといえど、実力に見合わない環境では子どもが必要以上に苦労するだけ。時間とお金には限りがあるので、子どもを信じて支えてあげることに使って欲しいものですね。