買い換えの必要なし!? 45年以上も現役「黄色の筆洗バケツ」に驚き 廃業するメーカーに漫画家が感謝「まぎれもない昭和の名品」

宮前 晶子 宮前 晶子

「ウソでしょ!私、これ50年近く使ってるよ。(いや45年くらい?)全然壊れないの。これから単行本表紙カラー描く時も使うよ!ありがとうございました。本当にいつもこれからもお世話になります。」

図工の時間におなじみの黄色い筆洗バケツなどを製造する文具メーカーの廃業のニュースにショックを隠せない気持ちを綴ったのはマンガ家の流水りんこさん(@RinkoWaters)。使い古されて、いい味を出している筆洗バケツやパレットの写真とともに、感謝の意を述べました。

『まいどなニュース』では、図工の時間におなじみの黄色い筆洗バケツを長年製造、3月末での廃業を告げた株式会社ツボヨネ製作所(大阪市平野区)に取材を行い、少子化、後継者不足を理由とする廃業理由を伝えましたが、今回はロングユーザーの流水さんに取材。愛用者としての思いから、ひとつのメーカーがなくなってしまうことから見える問題までお話しいただきました。

美大生やプロの悲喜こもごもに寄り添ってきた

廃業のツイートを見た瞬間は、メーカーが同じデザインで製品を作り続けていたことに驚き、感動されたという流水さんと筆洗バケツの出会いは中学生。「新商品として発売された頃に手に入れました。というのも、わが家は、親が学校教材の会社をやっていた関係で、いち早く新商品の筆洗バケツを知ることができる環境だったんですね。絵ばかり描いている私に、親が“新製品のこのバケツはすごく良い。とても売れているんだ”と見せてくれて、使ってみたくなって、そのままもらったという思い出があります」。

それまでは、水を入れても不安定なビニール製のバケツを使っていたそうで、この筆洗バケツの使い心地の良さに惚れ込んだそう。

10歳ぐらい年下の世代になると、小学校で集団購入する画材道具のひとつになりますが、流水さんの同級生の周辺で筆洗バケツを使っている人はごくわずか。「でも、美大合格をめざして通った美大予備校では、ほとんどの人がこのバケツを使っていましたよ。学年的に小学校での集団購入組ではないはず。使いやすいという周囲の評判を聞きつけて、画材屋で買っていたのだろうと思います。だから、この筆洗バケツは、美大受験に賭けている人達の悲喜こもごもを見ていますよね」。

流水さん自身も、さまざまな思い出が染み込んでいるこのバケツには思い入れたっぷり。「美大までは水彩絵の具で使い、大学では日本画科でしたので岩絵具、卒業して漫画家になってからは墨汁を洗い流す筆洗バケツでした。ドロドロに色がついているのはそのせいです」と打ち明けます。

使い勝手がよく、壊れない…まぎれもなく昭和の名品

「本当に感謝しかありません。使い勝手の良さ、頑丈さ、どれを取っても昭和の名品」と賛辞を贈る流水さん。

多くの反響があったことについては「反応が多くてびっくりしています。あまりにも汚いバケツに驚いているのかな(笑)」と笑い飛ばした後、気になった声として「壊れないもの作ったせいで新しく購入してもらえず倒産」という意見の多さを指摘。

「廃業の理由に、多少そういう面はあるかもしれません。でも、やっぱり大きいのは、「少子化」と「材料費高騰」ではないかなと。私達が小学校〜中学校時代は1クラス45人構成で1学年3クラスから5クラスありました。都心のマンモス校になると、1クラス50人以上で10クラスというのもありました。でも、現在の小中学校は1学年20人クラスが2クラスぐらいと聞いています。元教材屋の娘ですから、何年も前から子供の数が減って仕事が立ち行かなくなったという話はなんとなく聞いて知っていました。ひとつのメーカーの廃業に、今の日本の閉塞感が見えるようで、なんとかしないといけない、と思います」。

「子供がたくさんいた時代は、親が働けばお金が稼げる時代でした。子供にもお金がかけられるようになってきて、少しでも良い品物を子供に与えたいと思った時代だと思います。メーカーも頑丈で良いものを作ろうという姿勢だったし、日本が作る製品は良いと世界からも一目置かれていました。私たちもそれが誇りだった」。インドをはじめとする各国を放浪していた流水さんも、行く先々で「それは日本製か?」と聞かれたと言いますが、「最近は、聞かれることがめっきり減った」とこぼします。

これまでに漫画家として『インドな日々』『インド夫婦茶碗』などを上梓してきた流水さんは、文化が衰退していくことも危惧。

「子どもがたくさんいた時代は、子供向け漫画などもどんどん花開いていき、それがまた大人の鑑賞にも耐えうる漫画の登場にもつながっていくわけで。早く、少子化をなんとかしないと。経済も文化も成り立たなくなっていきますよね」。

『霊能者詩乃のお仕事 それってマジですか 2巻』を3月に、『大家族ごはん物語』の発売も控えるなど新作を次々と発表している流水さん。「おかげさまで私もまだ絵を描かせていただいてます。うーんこのバケツに恥じないようにちゃんと仕事せにゃね。ととりあえず言っておこう。とりあえず、だ」。

株式会社ツボヨネ製作所は3月末で閉業するにあたって、本来は1月末で公式サイトも終了する予定でしたが、まだ購入したいという人々の声を受けて、急遽追加発売を決断。2月3日に商品を再追加しており、2023年2月10日まで販売中です(売り切れ次第終了)。

■流水りんこさんTwitter  @RinkoWaters
■ツボヨネ製作所 https://tsuboyone.com/

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