Matt風メークで桑田さん登場 親子共演CMが好感度1位に 老舗メーカーが着目した2人の関係

京都新聞社 京都新聞社

 工場のラインを流れる大量のMattさん(28)と、その中に1人だけ混じった父親の元プロ野球投手の桑田真澄さん(54)。親子共演CMとして2022年から23年の年末年始にテレビ放映され、記憶に残っている人も多いのではないだろうか。作品は、京都市の計量機器メーカー、イシダが手掛けた企業広告だ。CM総合研究所が調べた23年1月前期のCM好感度トップ10(銘柄別)で1位になるなど好評だが、作品の狙いはどこにあるのだろうか。

 モデルやタレントとして活躍し、特徴的なメイクでも知られるMattさん。CMでは、Matt風メイクを施した桑田さんが、イシダの主力製品であるエックス線検査装置で「異物」と検知され、取り除かれる様子を描く。排除された桑田さんが「アウトかいな…」と関西弁でぼやくコミカルさとともに、度量衡(はかり)を出発点とする同社のスローガン「はかりしれない技術」をアピールする内容だ。

 実はこのCM、10年前から続くシリーズ作品である。第1弾は、2012~13年の年末年始に放映された。起用したのは、双子の評論家でタレントのおすぎさんとピーコさん。同じように、おすぎさんに混じったピーコさんが「異物」として除去され、「なんで分かったのよ、もぉ!」と憤る。斬新なCMとして当時注目された。

 その2年後に発表した2作目は、大物ミュージシャンの内田裕也さん(故人)が登場した。トレードマークの長い白髪にサングラス姿で「ロッケンロール」と連呼する内田さんの中に、サラリーマン風に変装した内田さんが混じる。装置に選別された“普通”の内田さんが「シェキナベイビー」と叫びながらはじき飛ばされる。広報担当は「思い切った起用として話題になりました」と話す。

 Mattさん、桑田さん親子のCMはシリーズ3作目となるが、視聴者にインパクトを与えたようだ。1月前半のCM好感度調査の2位はKDDI、3位は日本マクドナルド、4位は日清食品、5位はユニクロ。ブランドが定着した消費者向けビジネス(BtoC)の大企業を上回り、イシダのように企業を相手とするビジネス(BtoB)の業態で1位に立つのは異例という。

 イシダはなぜ、8年ぶりにシリーズCMを復活したのか。一番の目的は「リクルート活動への活用」(広報)だった。大学生らの採用活動で、最初の「壁」となるのが企業の認知度という。京都や滋賀ではよく知られたイシダも、全国的な知名度となると心もとない。幅広い年代がテレビを見る年末年始の9日間に絞り、集中的に放映した。

 では、Matt・桑田親子を起用したのはなぜか。「学生ら若い人たちとその親世代の両方に刺さる著名人」(広報)というのが理由の一つだが、重視したのは2人の関係性という。野球少年だったMattさんは、中学進学とともに音楽の道を志し、桑田さんも息子の挑戦を応援した。イシダの広報担当は「自分らしさや他者を尊重し、寄り添う。そして挑戦を大切にする。お二人の親子関係に学ぶことは多い」と話す。

 CMと同時に発表されたインタビューで、Mattさんは「芸能界に入った直後はバッシングがたくさんあり、最初の3年を耐えてから仕事が増えた。その時を忘れることはありません。そんな時期を父が支えてくれた」と語った。

 桑田さんは「運動神経が良いので個人的には野球選手になってほしかった」としつつも、「自分とは分野が違うが、すごく自分で道を切り開いている。時々くじけたりしながらも、また前を向いて頑張ろうとしているところがプロフェッショナル」と息子の姿勢を評価している。

 CMでは、およそ10本に1本の割合で、桑田さんが手に野球ボールを握る「特別版」が放映された。しかも握り方は、桑田さんの宝刀カーブだ。CMは終了したが、YouTubeで3月下旬まで公開する。また、イシダは今回初めてTwitterやTikTokといったプラットフォームにも関連コンテンツを配信した。普段からテレビを見る若者が減り、メディアを多様化させたという。

 イシダは今年5月で創業130年となる老舗メーカー。開業した1893(明治26)年は、日本最初の近代的計量法である「度量衡法」が制定された。創業者の石田音吉がてんびんなどはかりの修復・販売を手掛け、戦後は国内初の自動上皿てんびんのほか、形や重さの異なる食品を複数集めて決まった容量に袋詰めする「組み合わせ計量器(コンピュータスケール)」も開発。食品計量や農作物の出荷を大幅に省力化した。

 CMに登場するエックス線検査装置も、国内で6割程度のシェアを握るというトップメーカーだ。中身のあんが偏ったまんじゅうや骨の破片が入ったソーセージなど異物や不良品を瞬時に見つけ出せるという。海外ビジネスの拡大を目指すイシダは、技術者らの採用を強化している。Mattさんと桑田さんのCM効果はどうか。それは今春から本格化する新卒採用で早速試される。

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