温泉家北出恭子さんに聞いた 「美肌県」掲げる島根の温泉、よそとどこが違うの?

宍道 香穂 宍道 香穂

 山陰両県には多くの温泉地があり、寒い冬は温泉のぬくもりが心地良い。温泉の特徴や泉質について理解すると身近な温泉をより深く楽しめるのではと、温泉を研究する北出恭子さんに話を聞いた。

 北出さんはこれまで全国2000カ所以上の温泉に入り、温泉事業者に向けた講演や人材育成、温泉の監修などに取り組んでいる。島根県内の温泉地にも詳しい。

 環境省が発表している温泉利用状況によると、2020年度時点で島根県には40の温泉地がある(鳥取県は15、全国平均は62)。北出さんは「島根の温泉は自然湧出(ポンプなどでくみ上げをしていない、地下から自然に湧き出ている温泉)が多く、泉質も幅広い。温泉好きにとっては湯巡りがとても楽しい場所」と評価した。

 多くの都道府県では自然湧出の温泉よりもくみ上げ式の温泉が多いが、島根県の温泉は自然湧出の温泉の方が多い(1分あたりの湧出量27,878リットルに対し、自然湧出が14,071リットル。ほぼ半分が自然湧出になる)。

▷温泉の分類

 温泉法により定められた温泉のうち、特に療法に役立つ泉質をもつ温泉は「療養泉」に認められている。療養泉は10種類に分けられ、これが「泉質」と呼ばれている。島根県内にある温泉は10種のうち8種の泉質をカバーし、北出さんは「温泉大国・大分県と並ぶ幅広さ」と話す。一つの温泉が複数の泉質をもっている場合も多いという。
 泉質ごとの効能は以下の通り。

① 単純温泉:成分が優しく、肌への刺激が少ない。
② 硫黄泉:血行促進効果があり、慢性湿疹などの皮膚トラブルに効果が期待できる。
③ 塩化物泉:塩分が肌に膜を作り保湿、保温する。
④ 炭酸水素温泉:余分な皮脂や古い角質を落とす効果がある。
⑤ 硫酸塩泉:「傷の湯」とも呼ばれ、肌の蘇生作用や保湿効果が期待できる。
⑥ 二酸化炭素泉:炭酸ガスが血行を促進する。新陳代謝が高まり、老廃物の排出が促進される。
⑦ 酸性泉:殺菌力が高く、アトピー性皮膚炎などに効果が期待できる。
⑧ 含鉄泉:鉄分を多く含み、茶褐色になる。飲用可の温泉は、飲泉すると貧血に良いとされる。
⑨ 放射能泉:細胞を活性化させる効果や、痛風やリウマチなど痛みを和らげる効果が期待できる。
⑩ 含ヨウ素泉:殺菌効果が高い。うがい薬のような独特の香りが特徴。

 それぞれの泉質に該当する島根県内の温泉は、県が発行している総合観光情報誌「ご縁旅しまね」で紹介されている。ホームページからも見ることができる。

 北出さんは「温泉は化粧品を選ぶように選ぶと良い」とアドバイスした。毛穴汚れが気になる場合は洗浄効果が強いアルカリ性の温泉、肌に潤いを与えたい場合は塩化物泉など、泉質の特徴を踏まえて選ぶと、肌や体調の悩みの解決に役立ちそうだ。

 泉質のほかにも、温泉はph値(水素イオン指数)と体への浸透圧によって分類される。
 日本にはph値が1~11までの温泉がある。数値が小さくなるほど「酸性」に、大きくなるほど「アルカリ性」になる。酸性の温泉は肌の角質を取り除いたり、毛穴を引き締めたりする。アルカリ性の温泉は、とろりとした湯が特徴で、汚れや皮脂を落とし肌をすべすべにする効果が期待できる。

 浸透圧については、体の細胞液の濃度よりも温泉の濃度が高い場合が「高張性」、温泉の濃度の方が低い場合は「低張性」と分類され、高張性になるほど体への浸透度が高くなる。高張性の温泉は成分が効きやすい一方で、湯あたりをしやすいため北出さんは「長風呂はお薦めできない」と助言した。低張性の温泉は高張性と比べて浸透度が低いが、効き目が穏やかで、やさしいつかり心地が特徴。子どもや高齢者でも安心して入りやすいという。

▽お薦めの入浴方法

 温泉に入るなら、効果的な入浴方法を知りたい。北出さんのお薦めの入浴方法を教えてもらった。
① 水分補給はしっかりと:脱水症状を防ぐほか、水分が出ることで血液がドロドロになってしまうのを緩和する目的もある。
② 入浴しながらストレッチ、マッサージ:周囲に人がおらず、迷惑にならない状況であれば湯の中でストレッチやマッサージをするのもお薦めという。水中では浮力が働き、ストレッチによるリラックス効果が高まる。また、水圧によりマッサージ効果も増幅する。
③ 温冷交互浴:血管の拡張、収縮を促し、血行を良くしたり、老廃物の排出を促進したりする。高齢者や心臓疾患の恐れがある人は水風呂を避ける。
④ 石けんは手で泡立てて優しく洗う:温泉につかると、酸性またはアルカリ性の湯により肌が洗浄される。温泉につかった後は汚れが取れている状態。何度も洗ったりタオルで力強く洗ったりすると、肌が傷ついてしまう。
⑤ 源泉でタオルパック:源泉を洗面器にため、タオルを浸して絞り顔に乗せる。蒸しタオルでパックすることで毛穴が開き、汚れが取れやすくなる。
⑥ 保温:温泉から上がった後は冷房や扇風機に当たるのではなく、タオルや衣類で体を包み10~15分間、保温する。肌の細胞を修復する「熱ショックタンパク質」が働いて肌の免疫力が上がり、美肌効果が期待できる。

▽北出さんチョイス 島根のお薦め温泉

 島根県にある温泉のうち、北出さんがとくに気に入っているのは、美郷町にある「千原温泉」と、大田市三瓶町にある「小屋原温泉 熊谷旅館」。

 千原温泉は、地下から湧き出た温泉にそのままつかることができる「足元湧出泉」が楽しめる。北出さんは「湧きたてのお湯につかることができる温泉は、全国でも珍しい。温泉の成分が損なわれず、ダイレクトに効果を感じることができる」と評価した。湯は茶褐色の「にごり湯」で、炭酸ガスとともに源泉が湧き出す様子を見ながら入浴を楽しめるのも魅力という。

 小屋原温泉 熊谷旅館のお薦めポイントは「自然湧出している、湧き立てで新鮮な極上湯」(北出さん)。濃厚な塩分と炭酸ガスを含んでいるため、全身が炭酸の泡で包まれ、血行促進効果を実感できるとのこと。37.8℃の「ぬる湯」のため、リラックス効果も抜群という。

 温泉には泉質ごとの効能と体が温まることによる新陳代謝の向上などに加えて、リラックス効果やリフレッシュ効果といった、温泉が湧出する場所の山や海といった豊かな自然環境の効果もある。北出さんは「島根には個性的な温泉がたくさんある。温まって終わり、ではなく温泉の香りや音、景色、お湯の色、味(飲用可の温泉)、肌ざわりなどを五感で楽しんでもらいたい」と話した。

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